黒人リンチを告発した闘う歌姫『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
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入院先でも続いたビリーに対する嫌がらせ
ビリー・ホリデイが「奇妙な果実」を初披露したのは、ニューヨークの先進的なクラブ「カフェ・ソサエティ」だった。このクラブは客席を白人と黒人とに分けることがなく、一緒にステージを楽しむことができた。ステージの終わりに、ビリーはいつも「奇妙な果実」を歌った。ビリーの歌に白人も黒人も耳を澄ませ、歌い終わると惜しみない拍手を送った。ステージと客席とが一体化する瞬間だった。
1年に及ぶ刑務所生活からの釈放後、ビリーはカーネギーホールで復帰コンサートを行うなど精力的に歌い続けたが、政府による圧力は執拗に続いた。体調を崩したビリーが運び込まれた入院先でも、捜査官が逮捕状をチラつかせるなどの嫌がらせがあった。ビリーは44歳の若さで、1959年にその生涯を閉じる。ビリーは「奇妙な果実」を歌うことで公民権運動の口火を切ることになったが、公民権運動が実った結果を知ることなくこの世を去った。
ビリー・ホリデイがステージで「奇妙な果実」を歌えば歌うほど、奇妙な果実はたわわに膨らんでいった。権力者が圧力をかければかけるほど、その果実は妖しく色づいていった。やがて大きく実った果実は弾け、その種子を飲み込んだ人たちが各地へと広がり、公民権運動を支えることになった。
奇妙な果実がなるステージで、ビリー・ホリデイは、この地上で人種差別が続く歴史を俯瞰して見つめるのと同時に、人種差別がなくなった未来社会も幻視していたのではないだろうか。彼女が歌う「奇妙な果実」には不思議な力がある。
『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
原作/ヨハン・ハリ 脚本/スーザン=ロリ・パークス 監督・製作/リー・ダニエルズ
出演/アンドラ・デイ、トレヴァンテ・ローズ、ギャレット・ヘドランド、ミス・ローレンス・ワシントン、ナターシャ・リオン、ロブ・モーガン、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、トーン・ベル
配給/ギャガ 2月11日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
©2021 BILLIE HOLIDAY FILMS,LLC.
gaga.ne.jp/billie
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