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『鎌倉殿』で描かれなかった北条政子の“駆け落ち事件”と、頼朝挙兵時の兵数問題

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

『鎌倉殿』で描かれなかった北条政子の“駆け落ち事件”と、頼朝挙兵時の兵数問題の画像1
北条政子(小池栄子)|ドラマ公式サイトより

 公式サイトに「三谷幸喜が贈る予測不能エンターテインメント!」というキャッチコピーが掲げられた『鎌倉殿の13人』。4回の放送を終え、いよいよその“本性”が露わになってきた気がします。

 「予測不能」という言葉をストレートに解釈すれば、「鎌倉時代は戦国時代や幕末に比べて知名度があまりないので、先がどうなるかわからないというおもしろさは確実にある」(公式サイトの三谷氏のインタビューより)となるでしょう。しかし、三谷氏はこういう発言もしています。「完璧に史実に沿ったつまらないドラマと、多少史実から離れた、でも最高におもしろいドラマと、みんなどっちが観たいのか、と。僕はドラマ作家なので、当然後者を支持したい」と。

 この「後者」の部分がグイグイと頭をもたげてきているな、という印象を持ったのが、まさに先週放送の第4回でした。これまでも、お風呂に入る時や就寝中でも源頼朝(大泉洋さん)が烏帽子を取らない姿が描かれるなど、時代考証が丁寧な部分もありましたが、今後の『鎌倉殿』は“史実”をベースに、かなり大胆な脚色を加えたドラマになっていくのではないか、と筆者には思えてなりません。そしてフィクションの部分に説得力を持たせるため、細部はできるかぎり“史実”に沿うというのが『鎌倉殿』の流儀ではないでしょうか。

 第4回の放送で一番驚いたのは、“史実”では有名な北条政子の“駆け落ち”がついに描かれないままだったことです。政子の駆け落ちって何?という読者の方もおられるでしょうから、そのあたりがくわしく書かれている『源平盛衰記』の内容をまとめてご説明しましょう。

 北条時政の庇護を受けていた頼朝だが、時政が京都に仕事で出かけている最中、彼の娘の政子と(娘までできるほどに)仲良くなってしまった。京都から帰った時政はこれを問題視し、北条家にとっては“上役”にあたる山木兼隆という平家ゆかりの人物に政子を嫁がせることにした。しかし、政子は頼朝を深く愛していたので、山木の館を夜に抜け出し、山道を一晩かかって歩き、頼朝がいる伊豆山権現にたどり着いた……要約すると、このような話です。

 『吾妻鏡』でも、政子がかつての自らの行いを思い出し、次のように頼朝に語りかける部分が出てきます。

「君に和順して、闇夜に迷ひ、深雨を凌ぎ、君が所(=頼朝と落ち合う予定だった伊豆権現)に到る」

 政子の逃避行中に「雨になった」という記述は『源平盛衰記』にはないのですが、『吾妻鏡』では「深雨」、つまり大雨でずぶ濡れになりながらも、頼朝恋しさに山道を歩いて逃げたと政子本人に主張させており、よりドラマティックに演出された観があります。

 『吾妻鏡』は鎌倉幕府の公式史です。この時代のエピソードで“史実”といえるかどうかは、『吾妻鏡』に記載があるかどうかが判断基準だったりするわけですね。『吾妻鏡』にも採用されている、こうした若き日の政子の頼朝に対する一途さ、並外れた行動力を描いたエピソードを『鎌倉殿』がカットしてしまったのは、残念であると同時に、その背景を考えると興味深くも思われます。

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