トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 『エッシャー通りの赤いポスト』レビュー
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.667

「人生のエキストラ」で終わってもいいのか? 園子温監督作『エッシャー通りの赤いポスト』

「人生のエキストラ」で終わってもいいのか? 園子温監督作『エッシャー通りの赤いポスト』の画像1
名前のないエキストラから、安子(藤丸千)と切子(黒河内りく)は逆襲を謀る

 オランダ生まれの画家・版画家のマウリッツ・エッシャーは、多くの「騙し絵」を残した。階段を昇っているつもりが、いつの間にか階段を降りており、そして再び昇っていくことになる。エッシャーの絵の世界では、永遠の無限ループが続く。園子温監督の新作映画『エッシャー通りの赤いポスト』も「騙し絵」のような作品だ。出演者の最下層であるはずのエキストラたちが、いつの間にか主演俳優となり、物語を動かしていくことになっていく。映画界のカースト制度をひっくり返すような面白さがある。

 ニコラス・ケイジ主演のアクション映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(21)でハリウッド進出を果たした園子温監督。

 2019年2月に心筋梗塞で倒れたものの、無事に復活を果たしたわけだが、園監督の体調を気遣ったニコラス・ケイジの配慮から『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の撮影は一時延期され、ぽっかりと時間が空いてしまった。その空いた期間を利用して取り組んだのが、ワークショップ形式の映画制作だった。

 園子温監督が実践的ワークショップを開くということで、2週間で697名の応募があったそうだ。書類審査と面談で51名にまで絞り込まれ、ワークショップ参加者全員が出演する映画『エッシャー通りの赤いポスト』が制作された。制作予算は限られているが、ワークショップに参加した無名の若者たちのやる気だけは無限大だ。参加者たちの熱意が園監督を動かし、ワークショップ作品としては異例となる地方ロケ、園監督の故郷・愛知県豊橋市での撮影が行なわれた。

 本作のテーマは単純明快だ。「人生のエキストラでいいのか?」。無自覚なまま生きていれば、誰かの人生のエキストラのままで終わってしまう。映画やTVドラマのエキストラは、ただの通行人に過ぎない。エキストラでいる限り、長い台詞を覚える必要もなければ、変なプレッシャーを感じることなくお気楽に過ごすことができる。でも、一生ずっとエキストラのままでいいのか。エキストラ的な人生から脱したいなら、今この場で腹をくくるしかない。

 映画のストーリーはこうだ。カリスマ的な人気を持つ映画監督の小林(山岡竜弘)が新作『仮面』を撮ることになり、全キャストをオーディションで選ぶことが決まった。俳優志望の夫を亡くした若き未亡人の切子(黒河内りく)、殺気立った女・安子(藤丸千)らが応募してくる。映画に出ることで自分の人生を変えてみたい。そう願っている鬱屈した若者たちだった。

 小林の元恋人・方子(モーガン茉愛羅)がオーディションに立ち会い、切子と安子を強く推す。小林も方子の意見に同意する。ところがエグゼクティブプロデューサー(渡辺哲)の横やりが入り、有名女優を主演に据えるようにと圧力が掛かる。小林が映画制作に絶望する一方、メインキャストから外された切子、安子らはエキストラとして参加することに。撮影現場には不穏な空気が漂う。それは革命の始まりを予感させる匂いだった。

123
ページ上部へ戻る

配給映画