渋沢栄一が女性に見せた二つの顔――晩年も愛人を囲う一方で女子教育の普及に尽力
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多くの女性を妾として囲うと同時に、女子高等教育にも尽力
こうした渋沢の派手な女性関係は、子どもたちにあまりよい影響を残したとはいえません。渋沢の妻・兼子は、そういう渋沢の「友人」たちにずっと悩まされていましたし、そんな母を持つ秀雄も、思春期にあたる中学校の頃は父親の行いに対し「憤慨」することがあったそうです。しかし、その秀雄も大学を出た頃には「花柳界」……つまり芸者の女性を愛人にしていたのでした。
ドラマで描かれたように廃嫡された篤二は、高校時代からすでに芸者の愛人を囲っていましたが、これはさすがに渋沢家のゆるい性倫理でもNGでした。しかし大学を出て働いていれば、芸者の愛人を囲うようなこともOK……いや、正確にいうと「それくらいは許される」という感覚だったようです。一方で、芸者(あるいは元・芸者)を遊び相手ではなく、正妻として迎え入れたいなどというのは絶対にNG……これも渋沢家のルールだったようです。
当の渋沢が元・芸者だった兼子を妻にした事実があるのが不可解ですが、そこは後妻だからいいだろうという判断だったのでしょうか。二人の結婚時期の正確な記録は存在しておらず、そのあたりの事情は曖昧にされており、つまり“都合の悪いこと”として処理されていることがうかがえます。
ドラマでは描かれなかった、晩年の渋沢の「友人」エピソードはまだまだあります。渋沢が愛人と過ごしている時、急用のためどうしても渋沢に会いたいと、仕事先の人が愛人宅に直撃してきたのです。しかし、さすがの渋沢もこれは恥ずかしかったらしく、対応に困る愛人女性に「かようなところに、渋沢のおるべき道理はございません」と答えるよう指示したものの、生来の渋沢の声の大きさゆえに、やり取りが玄関まで丸聞こえだったそうです。それにしても、「私のような地位の人物が、愛人女性宅でしけこんでいるはずがないだろう」などと口にしてしまうあたり、本来ならば女道楽はやめるべきだと彼が感じていたことが透けて見えるようですね。
渋沢はその女性観を公然と批判されたこともありました。大阪で、女子のための高等教育機関である「梅花女学校(=女学校は現在の女子大に相当)」を立ち上げるべく活動していた成瀬仁蔵という教育者が明治29年(1896年)、東京の渋沢を訪ねてきました。この時、渋沢は成瀬から、「婦人も国民ではありませんか? 渋沢さん。あなたは婦人を人と思わない。あなたの欠点はそこにある」とハッキリ指摘されたそうです。
この頃までの渋沢は女子高等教育に反対だったそうですが、成瀬から自分の考えの誤りを指摘され、一転して梅花女学校の設立にも協力するようになります。こういう「君子豹変す(『易経』)」……徳の高い人物は自分の過ちや時代の変化に気づけば、鮮やかに姿を変えるものだといえる変化を見せられるところは、渋沢の素晴らしさでもあります。しかし、言うまでもなく、渋沢の女好きは最晩年までとどまることを知らず、金と権力を背景に、別宅に囲った女性が常に複数いたほか、家で雇った女中にも手を付けたりと、やりたい放題だったようですね。
ちなみに梅花女学校の設立・運営に尽力した中心人物には、あの広岡浅子の名前もありました。『青天を衝け』の脚本家である大森美香先生の大ヒット朝ドラ『あさが来た』のヒロインのモデルです。『あさが来た』には成瀬仁蔵をモデルにしたキャラクター(瀬戸康史さん)も出ていましたし、渋沢栄一(三宅裕司さん)も実名で登場しました。『青天』にはディーン・フジオカさんが『あさが来た』と同じく五代友厚役で出演して話題になりましたが、先のとおり成瀬と渋沢にはつながりがあるわけで、広岡浅子や成瀬も『青天』に一瞬でも登場していれば、より面白かったのに……などと思ってしまいます。
渋沢は、90歳を過ぎても(一時的にせよ)梅花女学校の校長を務めたことでもわかるように、女子教育の普及に力を注ぎ続けました。多くの女性を妾として囲うと同時に、女子高等教育にも尽力するという2つの顔があったわけですが、渋沢の中でも折り合いはついていなかったのか、晩年の「(自分の人生は)婦人関係以外は一生を顧みて(略)天地に恥じない」という言葉にはそうした複雑な思いが表れているような気がします(渋沢秀雄『我が父 渋沢秀雄』)。いずれにせよ、渋沢栄一はその長い生涯において、さまざまな意味で“女性”に強い関心を持ち続けていたということは間違いないでしょう。
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