ビートたけしがリスペクトし続けた伝説の芸人伝 『浅草キッド』が描く「お笑いゼロ世代」
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「有名になることでは師匠に勝てたものの、最後まで芸人としては超えられなかった」
お笑い界のみならず、テレビ、ラジオ、映画界に革命を起こしたビートたけしが、自伝的小説『浅草キッド』(太田出版)でそう語ったのが、浅草芸人の深見千三郎だった。
芸人としての師匠だった深見との出会いと別れを描いた『浅草キッド』は1988年に出版され、お笑いの世界に憧れる多くの若者たちにバイブルとして読み継がれてきた。劇団ひとりも、『浅草キッド』を愛読してきたひとりだった。劇団ひとりによって映画化された大泉洋&柳楽優弥主演作『浅草キッド』が、2021年12月9日よりNetflixにて配信されている。
映画『浅草キッド』の冒頭、いきなり現在のビートたけしが登場するので、「えっ、本人も出演していたのか」と驚く。だが、よく見るとビートたけし本人ではない。動作はそっくりだが、特殊メイクをして70代のビートたけしに完全になりきっている柳楽優弥だった。『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)や『ザ・ファブル』(19年)など狂気をはらんだ役を、柳楽は嬉々として演じてきた。柳楽自身の内面にも、どこかに狂気めいたものを感じさせる。そんな柳楽演じるお笑い界のビッグスター・ビートたけしが、芸人デビューを果たした青春時代を振り返る形で物語は進んでいく。
舞台となるのは1970年代の浅草。戦前や戦後は活気あふれる歓楽街だったが、テレビが普及し、この頃にはすっかり侘しくなっていた。浅草の劇場まで足を運ばなくても、テレビでお笑い番組や歌番組を楽しむことができる。すでに浅草は時代遅れの街になりつつあった。その浅草の小さなストリップ劇場「浅草フランス座」でエレベーターボーイを務めていたのが、若き日のタケシ(柳楽優弥)だった。大学の工学部を中退し、まだ何者にもなれずにいるひとりの若者に過ぎなかった。
時代から取り残された街・浅草には、かっこいい大人の男がいた。「浅草フランス座」の雇われ支配人兼ベテラン芸人の深見千三郎(大泉洋)だ。いつもパリッとしたスーツ姿で劇場に現れ、舞台に上がるとテンポのいいコントを演じてみせた。アドリブやお客のあしらい方もうまく、存在そのものが粋。「浅草フランス座」は踊り子たちのストリップショーが売りだったが、深見のコント目当ての客も少なくなった。かつての華やかな浅草の雰囲気を漂わせる深見に、青年タケシは憧れる。
深見に弟子入り志願するタケシだが、「芸の世界は甘かねぇ」と断られてしまう。それでも諦められないタケシは、深見を真似てタップの練習に励む。やがて、タケシにチャンスが回ってきた。コントの相方が不在のため、タケシがいきなり深見の相手役を務めることになる。タケシが演じるのはホステス役だ。初めての舞台で笑いを取ろうと、オカマのような濃いメイクをするタケシを、深見は叱り飛ばす。
「バカヤロー! 芸人は笑われるんじゃなくて、笑わせるんだよ」
おかしな外見をして笑われるのではなく、客を芸で笑わせるのが芸人であることをタケシは学ぶ。「バカヤロー!」が口癖のビートたけしは、毒舌ぶりやタップダンス、そして芸人としての笑いに対するスタンスなど、すべてが師匠・深見千三郎譲りであることが分かる。
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