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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.665

伝説の“美少年”を追った残酷なドキュメンタリー『世界で一番美しい少年』に見るアイドルの苦悩

50年の歳月を経た美少年タジオのその後

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60代になったビョルン・アンドレセンは、ベネチア、東京、パリを再訪する

 ビョルンとゲイ・コミュニティーとの関係についても触れてある。『ベニスに死す』のプレミア上映が終わり、役目を終えたビョルンをヴィスコンティ監督はゲイパーティーへと連れ出している。ナイトクラブでビョルンは大人たちから視姦されまくり、逃れるように酒を飲み続けたビョルンは意識を失ってしまう。1976年には、映画撮影のために1年間をパリで過ごした。パリでの映画の企画は流れ、ビョルンをトロフィー代わりに連れ歩くゲイたちから、わずかな小遣いをもらいながら生活したとビョルンは打ち明ける。ゲイ・コミュニティーについて語る彼の口は重く、言葉数は少ない。

 ビョルンはアイドルとして消耗品扱いされることを良しとしていたわけではなかった。だが、ヴィスコンティ監督との契約で、映画の公開から3年間はタジオ役のイメージのままでいることが決められていた。また、スウェーデンに戻ったビョルンは演劇学校に入学し、地道に俳優としての道を進もうともしていた。そんなとき、ビョルンは最愛の女性と出会い、新しい家庭を築くことになる。この幸せな家庭生活は長くは続かなかったものの、ビョルンが暖かい家庭を持っていたという事実は、ホッとさせられるものがある。

 なかなかスクリーンで観る機会のなかったビョルンだが、北欧のコミューンを舞台にした民俗系ホラー映画『ミッドサマー』(19)で、久々にインパクトのあるキャラクターを演じてみせた。すっかり白髪となり髭を伸ばしたビョルン演じる老人は、90年に一度の祭典のために命を投げ出すことになる。世界各地を流浪しただろうタジオのその後を思わせる姿でもあった。

 容姿に優れたアイドルは、人々に生きる喜びや生きがいを与える。だが、アイドル自身が孤独感や空虚さに悩んでいることはほとんど顧みられることはない。『ベニスに死す』の公開から50年。美しさがもたらす残酷さを、本作は痛いほど感じさせる。

 

『世界で一番美しい少年』
監督/クリスティーナ・リンドストロム、クリスティアン・ペトリ
出演/ビョルン・アンドレセン
配給/ギャガ 12月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開
©Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021
https://gaga.ne.jp/most-beautiful-boy/

最終更新:2021/12/09 21:00
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