ロンドンという街が若者の夢を搾取する恐怖 『ラストナイト・イン・ソーホー』
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『女王陛下の007』ほか60年代に輝きを放った名優たち
選曲と同様に、キャスティングもエドガー監督ならではの1960年代へのこだわりが感じられる。母親に代わってエロイーズを愛情いっぱいに育てた祖母ペギーは、リチャード・レスター監督の青春コメディ映画『ナック』(65)でヒロインを演じたリタ・トゥシンハム。エロイーズに近づく謎めいた銀髪の老人は、犯罪映画の傑作『コレクター』(65)に主演したテレンス・スタンプだ。60年代に活躍した名優たちが、顔をそろえている。
そして、エロイーズが下宿する屋敷の大家であるミズ・コリンズに扮しているのはダイアナ・リグ。彼女がヒロインを演じた『女王陛下の007』(69)は、「007」シリーズ屈指の感動作として語り継がれている。それまでのお色気要員扱いだったボンドガールとは異なり、自分の意思を持って行動し、2代目ジェームズ・ボンドの窮地を救う画期的なヒロインだった。アメリカン・ニューシネマを思わせるラストシーンも忘れらない。『ラストナイト・イン・ソーホー』はダイアナ・リグの遺作となったが、キャリアの最晩年まで新しい役に意欲的に挑んだ姿勢は称賛に値する。
夢は人間に生きる希望を与えるが、夢を追い求め過ぎるあまりに現実世界に戻ってこれなくなってしまった若者は少なくない。街は今も若者たちの夢を捕食しながら、さらに大きくなりつつある。若者たちから夢を搾取し続ける街が、一種の食虫植物のように思えてくる。
『ラストナイト・イン・ソーホー』
監督/エドガー・ライト 脚本/エドガー・ライト、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
出演/トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ、マット・スミス、テレンス・スタンプ、マイケル・アジャオ、ダイアナ・リグ
配給/パルコ、ユニバーサル映画 R15+ 12月10日(金)より全国公開
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