田中みな実『ずっと独身でいるつもり?』 相手の価値観に合わせて生きることの息苦しさ
#映画 #パンドラ映画館
男が抱く理想像に苦しめられる女たち
まみを苦しめているのは、決して悪意から生まれてきたものではない。理解のなさが招いているものだ。まみが結婚後の生活についてマジメに話し合おうとすると、公平は「いつも笑っているまみちゃんでいてよ」とすぐに話題を変えようとする。
愛する女性には、いつもニコニコと笑っていてほしい。そんな男の薄っぺらい理想像が、女を縛り付けてしまう。勝手な願望、理想像を押し付けられるせいで、まみは怒ることも、泣くことも、愚痴をこぼすこともできない。これから生活を共にするパートナーに、心の内をさらすこともできない。まみのフラストレーションはどんどん溜まっていく一方だった。
まみの結婚話を中心に、さまざまな立場の女性たちの生きづらさがオムニバス形式で描かれていく。由紀乃(市川実和子)は結婚するつもりで新しいマンションに引っ越したが、その直後に破談。クイーンサイズのベッドは、ひとりで寝るには広すぎる。まみが出演しているネット番組を見ては、ついついTwitterで毒を吐き、憂さ晴らしする由紀乃だった。そんなとき、大学時代の元彼と同窓会で再会。別れた男が、由紀乃にはかっこよく見えてしまう。
彩佳(徳永えり)は、Instagramで人気を集めているキラキラ主婦だ。SNS上では、かわいい赤ちゃんとイクメンの夫と幸せな家庭を築いているように映る。だが、夫が育児を手伝うのは、仕事が片付いて、気が向いたときだけ。24時間神経をすり減らす彩佳とは、あまりにも違う。実際の彩佳は、赤ちゃんだけでなく、もうひとり大きな子どもの世話も焼くようなものだ。
「孤独死のほとんどは、既婚者なんだよ」
彩佳の言葉に、ぞっとする人は多いのはないだろうか。家庭のために自分を犠牲にする日々を過ごし、連れ合いを失った後に待っているのが「孤独死」とは。独身者も既婚者も、どちらもしんどい。男たちの価値観に合わせて生きていく限り、女たちは息苦しさから解放されることはない。
男たちの価値観を逆手にとれば、もっと楽に生きられるのではないか。20代の美穂(松村沙友理)は、女としての若さを武器に生きようとする。ギャラ飲みを主催し、パパ活を重ね、お金を面白いように稼いでいく。体目当て集まってくる男たちをうまくコントロールしているつもりの美穂だったが、やがて自分で自分のことを消耗品扱いしていたことに気づく。気楽に生きているように思えた20代のイケイケ女子も、やはりつらい。
孤独な心を抱え、バラバラに生きる女たちは、物語の最後にほんの一瞬だけ邂逅することになる。
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