大阪という土壌が生み出した“遅咲きのヒーロー” 俳優&監督・上西雄大が語る泥まみれの役者人生
#インタビュー #上西雄大 #西成ゴローの四億円
お金の使い方に、その人の人間性が出てくる
――上西監督の作品はどれも大阪を舞台に、人情味たっぷりなドラマが展開されるのが特徴です。
上西 今回の『西成ゴローの四億円』は、西成のヒーローを生み出したかったんです。僕が子どもの頃は靴の片方が脱げ落ちているような雰囲気の街でしたが、今はクリーンになって、住み心地のよい街になっています。美味しい食べ物屋さんもいっぱいある。どんな人にも温かい街なんです。愛すべき街・西成のヒーローにゴローがなれればいいなと思い、『西成ゴローの四億円』の記憶を失っているゴローは実はかつて凄腕の諜報員だったという設定にしたんです。覚醒してからのゴローは無敵の存在です(笑)。
――お金で殺人を請け負うところは、朝日放送制作の人気時代劇『必殺仕事人』を思わせ、主人公が記憶を失っていたという設定は寺沢武一のSF漫画『コブラ』っぽくもある。とても分かりやすいストーリーです。
上西 僕は基本オタクなので、自分が好きなものばかり映画に入れているんです。子どもの頃にはブルース・リーに夢中になったし、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)の松田優作さんの殉職シーンには衝撃を受けました。ゴローがバイクで走るシーンは、松田優作さんの主演&監督作『ア・ホーマンス』(86年)のオマージュなんです。他にも原田芳雄さんや高倉健さんが主演した昭和の映画が大好きです。『西成ゴローの四億円 死闘篇』には『8時だョ!全員集合』(TBS系)やジュリアーノ・ジェンマをネタとして入れています。若い世代がどう反応するのか気になりますね(笑)。
――『西成ゴローの四億円』の個性的なキャラクターたちは、初登場シーンで所持金、貯蓄額、負債額が字幕表示されるのも、関西ならではのユニークな演出。
上西 お金って、人によって使い方がまるで違いますよね。すっごいお金を持っているのに、ドケチな人もいる。逆にお金を持っていないのに、バンバン使ってしまう人もいる。お金の使い方に人間性がすごく出てくるんじゃないかと思うんです。ギャグっぽい効果もあって、『西成ゴローの四億円』の中でいい演出になったんじゃないですか。大阪のおばちゃんは見た目は普通でも、ビルを丸ごと買い取ったりするほど、お金を貯め込んでいる人が実際にいたりするんです(笑)。
――『ひとくず 』は上西監督が2012年に旗揚げした劇団「テンアンツ」(2020年に映像劇団「テンアンツ」に改名)のメンバーが主要キャストとなっていましたが、『西成ゴローの四億円』はメジャーな俳優たちとの共演。インディペンデント映画への出演も多い津田寛治さんのゴローの相棒役は適役ですし、ラスボスを演じる奥田瑛二さんとの対決シーンは異種格闘技戦を思わせる緊張感があります。
上西 僕は監督というよりも、やっぱり俳優なんです。俳優である僕が憧れる人たちに、今回は出てもらっています。津田寛治さんとの共演シーンはどれも楽しかった。奥田瑛二さんは僕にとって神様みたいな存在です。俳優の演技は基本的にリアクションから生まれるものです。僕から「こうしてください」と言うことはまずありません。初めて共演する僕に対して、「こんな空気を奥田さんは投げ掛けてくれるんだ」と思い、感激しましたね。
『死闘篇』ではやはり憧れの石橋蓮司さん、笹野高史さんとも共演させていただきました。『死闘篇』で宿敵となる殺し屋を演じる加藤雅也さんは、世界でいちばんかっこい大阪弁を話す俳優だと思っています。そんな方たちと共演させていただくことで、ゴローの表情は生まれているんです。俳優として光栄だったし、最高の体験でした。
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