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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.640

コロナ禍でデビューを果たした注目の監督たち 愛に飢えた者の成長『ひとくず』『海辺の金魚』

コロナ禍でデビューを果たした注目の監督たち 愛に飢えた者の成長『ひとくず』『海辺の金魚』の画像1
“児童虐待”を題材にし、アンコール上映が続く上西雄大監督&主演作『ひとくず』。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの映画の劇場公開が見送られ、また公開したものの集客できずに沈んでいった作品も少なくない。そんなコロナ禍にあえぐ映画界にあって、しぶとく口コミでロングラン上映を続けているのが上西雄大の主演&劇場監督デビュー作となる『ひとくず』だ。“児童虐待”をテーマにした作品だが、上西監督自身が父親によるDV(家庭内暴力)に日常的に触れていたという体験があり、他人事ではない“痛み”がリアルに伝わってくる社会派ドラマとなっている。2020年3月の劇場公開以降、根強い人気を誇り、現在は渋谷ユーロスペースにて再アンコール上映されている。

 児童虐待、ネグレクトを題材にした『ひとくず』は、とてもシンプルな物語だ。空き巣を生業にしている金田(上西雄大)は、内側だけでなく外からもガッチリ施錠された家に忍び込む。家の中はゴミ屋敷状態で、金田が欲しているような金品はまるでなかった。代わりに金田が見つけたのは、食べ物がなくて栄養失調寸前となっていた幼女・鞠(小南希良梨)だった。金田は鞠をひと目見ただけで、虐待されていることに気づく。金田もまた、子どもの頃に親から酷い目に遭っていたからだった。

 不幸を知る者には、不幸のどん底にいる者の心の叫び声が聞こえる。金田はコンビニで買ったパンやジュースを鞠に与え、家の外へと連れ出す。鞠の手の甲にはタバコを押しつけられた火傷の痕が痛々しく残っていた。金田と同じだった。金田は鞠に新しい洋服を買い与え、夜の遊園地へと向かう。大人の顔色をうかがってばかりいた鞠だったが、金田と一緒に観覧車に乗り、初めて笑顔を見せた。金田は孤独な少女・鞠に目一杯の愛情を注ぐことで、自身の哀しい過去を帳消しにしようとする。

 やがて、鞠の母親・凛(古川藍)が情夫を伴って帰ってくる。鞠に再び折檻しようとする情夫を、凛は止めようとしない。そこに金田が現れ、家庭内暴力を上回るウルトラ暴力でもって情夫を排除してしまう。親の愛情を知らずに育った金田は、タイトルに謳われているとおりの「ひとくず」だ。だが、行政や地域社会が守ってやることができない鞠を救えるのは、「ひとくず」の金田しかいなかった。

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