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映画『アレックス STRAIGHT CUT』公開記念インタビュー

ギャスパー・ノエ監督が衝撃作誕生について語る 「人生はほんの一瞬の出来事で逆転してしまう」

時間はすべてを破壊するが、創造もする

ギャスパー・ノエ監督が衝撃作誕生について語る 「人生はほんの一瞬の出来事で逆転してしまう」の画像3
ヴァンサン・カッセルとモニカとの結婚生活は1999年から2013年まで続いた

 ギャスパー・ノエ監督は1963年にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで生まれ、1976年にフランスに移住している。両親のもとで幸せな少年時代を過ごしたが、マドンナ主演映画『エビータ』(97年)でも描かれたファン・ペロン大統領による軍事政権に両親は睨まれていたという逸話がある。自身の体験が作風にどんな影響を与えたのかも尋ねてみた。

――アルゼンチンの軍事政権によって、ギャスパー・ノエ監督の両親は収容所送りになったという記事を読んだことがあります。幸せな家庭がある日いきなり破壊されてしまうのは、大変な恐怖だったのではないでしょうか?

ギャスパー その話は事実とはちょっと違うんだ。僕の父親はアルゼンチンで左翼運動に関わっていたので、軍事政権に睨まれていたのは事実なんだ。でも、収容所に送られる前に家族でアルゼンチンを離れ、フランスに渡ったというのが真相なんだ。とはいえ、両親の友人や知り合いの中には、処刑されてしまった人たちもいる。まぁ、政治的な問題に限らず、ほんの一瞬の出来事によって人生は逆転してしまうことは多いんじゃないかな。アルゼンチン時代だけでなく、僕は死にそうになったことが何度もあるんだ。最近だと1年半前に僕は脳出血で倒れて、周りからは死ぬかもしれないと思われていたしね。でも、お陰さまでこうして元気に生きている(笑)。人生には予測しないことが突然起きるし、それは恐ろしくもあり、面白くもある。いろんなドラマが起きるから、人生は楽しいんじゃないかな。

――『アレックス』のオリジナル版の公開から20年近くが経ちました。この20年間で、世界はどう変わったと感じていますか?

ギャスパー 20年前の世界が平和だったかというとそうでもないわけだけど、この20年間も各地でずっと戦争や紛争が起き、人間は殺し合いを続けているよね。環境問題は20年前より、さらに悪化している。みんな将来に対して悲観的な見方をするようになってきて、20年前には自由にできていたことも難しくなってきているように感じる。その一方、20年前にはまだ一般的ではなかったSNSが普及した。取り巻く環境が悪化するのと相反するように、享楽的なものを一般の人たちはより求めるようになってきているんじゃないかな。それと、『アレックス』を見直していて思い出したんだけど、当時のモニカとカッセルの2人は本当に相思相愛の関係で、劇中の彼らが愛し合う姿を観ていて、僕までセンチメンタルな気分になったよ。あんなに深く愛し合っていた2人が別れることになるなんて、想像もしなかったからね。

――まさに『アレックス』で掲げられる言葉「時はすべてを破壊する」ですね。

ギャスパー いやいや。確かに時間はすべてを破壊するけれど、創造もするものだよ。モニカとカッセルは別れることになったけど、『アレックス』を撮った後に2人の間には、女の子が2人生まれているんだ(笑)。

――「時はすべてを破壊するが、創造もする」。20年の歳月の重みを感じさせる言葉です。ギャスパー・ノエ監督は『アレックス』の後も、幽体離脱&輪廻転生を題材にした『エンター・ザ・ボイド』(09年)、射精シーンを3D撮影した『LOVE【3D】』(15年)などの過激作を発表し続けています。今後も問題作を撮り続けるのでしょうか?

ギャスパー これから僕の中からどんな作品が生み出されるのかは、僕自身も分からないな(笑)。3か月前に完成したばかりの映画『VORTEX』は、老境のカップルを描いたもので、僕の作品としては珍しくドラッグシーンもないし、R指定にもならない作品になったんだ。主人公の映画批評家を、イタリアの映画監督ダリオ・アルジェントに演じてもらったよ。

――ギャスパー・ノエ監督作品でR指定なしの映画?  想像がつきません(笑)。

ギャスパー 年齢制限が付かないので、僕がこれまでに撮った作品の中ではいちばん幅広い人が鑑賞できる作品になっているよ。暴力シーンはないけれど、とても悲しい物語になっているので、悲しさが暴力的な映画になっているかもしれないね。

――最後になりましたが、ギャスパー・ノエ監督がいちばんお好きな木下恵介作品を教えてください。

ギャスパー 僕がいちばん好きなのは『楢山節考』(58年)。『楢山節考』の木下監督は最高だよ!!

 

ギャスパー・ノエ
1963年アルゼンチン生まれ。オリジナル版『アレックス』(02年)の冒頭に登場する肉屋の主人を主人公にした『カルネ』(91年)、その続編『カノン』(98年)が話題となる。2002年のカンヌ国際映画祭で正式上映された『アレックス』が大反響を呼び、世界的に知られる存在に。その後も日本でロケ撮影した『エンター・ザ・ボイド』(09年)、主人公たちが赤裸々に愛し合う姿を3D撮影した『LOVE【3D】』(15年)、LSDを誤って飲んでしまったダンサーたちが酒池肉林状態になる『CLIMAX クライマックス』(18年)など波紋を呼ぶ作品を撮り続けている。

『アレックス STRAIGHT CUT』
監督・脚本・撮影・編集/ギャスパー・ノエ 音楽/トーマ・バンガルテル
出演/モニカ・ベルッチ、ヴァンサン・カッセル、ジョー・ブレスティア、アルベール・デュポンテル、フィリップ・ナオン
配給/太秦 10月29日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
※オリジナル版『アレックス』も同時公開
© 2020 / STUDIOCANAL – Les Cinémas de la Zone – 120 Films. All rights reserved.
https://alex-straight.jp

最終更新:2021/10/27 12:16
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