非ゾンビ映画も怖い! ジョージ・A・ロメロ監督の“高齢者虐待”映画『アミューズメント・パーク』
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萩尾望都の『ポーの一族』を思わせるヴァンパイア映画
老人蔑視、高齢者いじめは「エイジズム」と呼ばれ、欧米では人種差別や性差別と同じように捉えられている。劇中の若者たちは高齢者を自分とは異なる生き物のように扱うが、当然ながら彼らもやがては高齢者となっていく。将来の自分をディスっているということに、若者たちは想像が及ばない。高齢者は経験を積み、思慮深くなっているにもかかわらず、彼らのそうした内面はまったく評価されない。若さやお金が尊ばれ、老人をいたぶって喜ぶこの遊園地は、カリカチュア化された現実世界そのものである。あまりに悲惨で生々しすぎる内容に、教会はこの映画を封印してしまった。
エイジズムのひとつに、高齢者たちを個人として扱わずに「おじいちゃん」「おばあちゃん」とひと括りにしてしまう行為も挙げられる。高齢者には性欲などの欲望はなく、地味にひっそりと暮らすものだと決めつけられてしまう。名前を持つ個人ではなく、ただの「老人」という匿名的存在にされてしまう。
匿名的存在に変えられてしまうという点では、ゾンビ映画と共通する。名前のある人間が、ある日いきなりアンデッドとなり、ゾンビの群れの一員となってしまう。生き残った人たちは、自分が匿名的存在=ゾンビになることを恐れ、必死に逃げ惑う。匿名的存在に変えられる恐怖を描いたのがゾンビ映画であり、匿名的存在に変えられてしまった側の悲劇を描いたのが『アミューズメント・パーク』だと言えるだろう。
また、ゾンビ映画はメディアの進化と共に人気が広まっていった。深夜テレビで放映され、ビデオ化されることで、ロメロ作品は知られていくことになった。2000年代以降はインターネットの普及により、配信ドラマを介して、ゾンビ人気はいっそう広まった。メディアの発達によって世界はひとつに繋がれたが、同時にマス(大衆)という不特定多数な匿名的存在も大量に生み出した。匿名的存在の中に自分も飲み込まれていくという絶望感と恍惚感の両方が、ロメロ作品の根底を流れている。
4Kリストア化された『アミューズメント・パーク』に加え、ロメロ監督のゾンビ映画ではない代表作も併せて今回リバイバル公開される。『マーティン 呪われた吸血少年』(77)は、ロメロ監督自身がいちばん気に入っていた作品だ。寝台列車で旅を続けるマーティン(ジョン・アンプラス)は一見すると美少年だが、実は19世紀生まれの吸血鬼。萩尾望都の人気コミック『ポーの一族』を思わせる設定となっている。
マーティンが女性を襲う際は、睡眠薬で相手を眠らせてから血を奪う。現代的でスマートな吸血鬼だ。しかし、80歳を超える従兄弟のクーダ(リンカーン・マーゼル)に吸血行為を咎められ、しぶしぶ彼が営む雑貨店で居候生活を送ることに。クーダの孫娘・クリスティーナ(クリスティーン・フォレスト)は陽気な性格でマーティンと仲良くなるが、やがて彼女は恋人と一緒に街を出ていく。再びひとりぼっちになったマーティンは、ラジオ番組のDJに吸血鬼としての悩みを打ち明ける。吸血鬼は現実世界に実在する!? 「伯爵」というラジオネームを名付けられたマーティンは、リスナーたちの間で人気者となっていく。
ラジオという親近感のあるメディアと吸血鬼とを組み合わせた、ロメロ監督の抜群の社会風刺が楽しめるホラー快作だ。この作品が欧州で好評だったことから、ロメロ監督の名を一躍有名にする『ゾンビ』が制作されることにもなった。
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