『青天を衝け』で大久保利通が“悪役”として描かれたのは“陰キャ”で渋沢栄一に嫌われていたから? 個性豊かな新政府の面々の実像
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大隈重信から見た大久保は「極端に保守的」な人物
ドラマの大久保利通(石丸幹二さん)は、一方的に渋沢や井上(そしてすでに違う部署に配属されてしまった大隈)に憎悪を向けているように描かれていますが、しかし史実では井上が大久保に“嫌がらせ”をしたこともあります。
井上と渋沢が大久保の宴席に招待された際に、井上は酒に酔ったふりをして「お前(=大久保)などは、妙に様子ぶっとるばかりで、何も仕事はできやせん。そのくせ威張るだけは威張っとる。そんなヤツがおるから、世の中がうまく治まらんのだ。ワッハハハ」(『父 渋沢栄一』)などと面罵したのです。その後も「口ぎたない罵倒がつづいた」にもかかわらず、大久保は酒の席のことだからと堪え、相手にしなかったそうですよ。渋沢も井上を止めなかった点で同罪といえるでしょう。
渋沢本人も後日、大久保とトラブルを起こしました。こちらは完全にシラフです。国家財政の年間予算が決まる前に、陸軍省の軍事予算は年800万円、海軍省を年250万円にしたいと提案してきた大久保に、渋沢は「歳入の統計もできないうちから、巨額な軍費を先に決定することは、財政上危険至極」などと反論。渋沢は「大久保さん、あなたは経済がわかっていない」というふうに正論をぶつけ、彼を不機嫌にさせてしまったのです。ドラマの渋沢なら言いかねない感じですが、史実でもそういう口調で新政府の実質的な中心人物だった大久保にたてついたのですから、驚いてしまいます。
ちなみに、大隈重信から見た大久保評は「極端の保守主義を執(と)れるもの」でした。この頃、大隈は日本全国を鉄道で結ぶ事業を立ち上げようとしていました。これは革新的な一大プロジェクトでした。大久保、そしてドラマにはなぜかまったく出てこない木戸孝允といった明治新政府の中心人物のほか、岩倉具視、三条実美、山内容堂などの旧・支配者層の人物も、大隈の計画にはおおむね賛同してくれていたのですが、山内を除いて「一人もあえて余等を勧励(かんれい)してその急激なる改革を断行せしめんとするものなく」……誰ひとり具体的な手助けをしようという人はいなかったそうです。大久保の態度はどうだったかというと、好意的に振る舞ってはいても、大隈の屋敷にやってきては「勧諭(かんゆ)を加えた」といいます。つまり「そこまで急激に物事を進めるのはよくないから、わきまえなさい」と諭していたわけです。大久保にこのようなことを言われてもなお、大隈は鉄道事業を諦めたりしませんでしたが。
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