あの世から生還した園子温監督の復帰第1作! 映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』
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去勢され、過去を懺悔するヒーロー
脚本は園監督のオリジナルではなく、またハリウッド作品ゆえに編集にもタッチしていない。そのため園子温ワールド大噴火とは言い難い。しかし、『紀子の食卓』(06)や『愛のむきだし』などの一連の園監督の代表作を手掛けてきたカメラマン・谷川創平による撮影は美しく、銀行襲撃シーンでカラフルなガムボールマシーンが崩壊する瞬間は目に焼き付く。また、ヒーローが迷い込む「ゴーストランド」は、寺山修司が主宰した「天井桟敷」の野外劇を思わせる。針の動きを止められた時計塔のセットは、とてもゴージャスだ(美術:磯見俊裕)。編集のテンポがよくないことさえ脳内補正すれば、園監督流西部劇として楽しめる。
ヒーローがバーニスを探すために訪れる「ゴーストランド」は、行き場を失った者たちがたむろする、掃き溜めのような場所だ。ガバナーの支配を嫌って逃げ出したものの、そこは天国でもなければ地獄でもない。煉獄のような不毛の土地である。片方のキンタマを失ったヒーローは、この地でこれまでの自分が犯した暴走行為を反省し、改心することになる。ヒーローが懺悔する相手は、かつての相棒であるサイコ。サイコを演じてるニック・カサヴェテスの父親は、説明するまでもなく「NYインディーズ映画の帝王」と崇められたジョン・カサヴェテス監督であり、園監督が寺山修司と共に最もリスペクトしている人物に他ならない。
園子温作品といえば、『紀子の食卓』の吉高由里子、『愛のむきだし』の満島ひかり、『ヒミズ』(12)の二階堂ふみ……、と若手女優たちが次々とブレイクしたことで知られている。『冷たい熱帯魚』でメインキャストに抜擢された神楽坂恵は、撮影中ずっと園監督から罵倒され続け、精神的に追い詰められた状況だったと語っている。園監督の厳しい演出によって、神楽坂はグラビアアイドルのイメージから大きく脱皮してみせた。続く『恋の罪』(11)の撮影後、神楽坂は園監督と結婚しているが、今ならパワハラと訴えられかねない現場だった。
それまで傍若無人だったヒーローが「ゴーストランド」に迷い込み、懺悔する姿は、園監督本人と重なる部分を感じさせる。園監督の演出や制作スタイルについていけずに、現場を去ることになった俳優やスタッフは少なからずいることだろう。だが、園監督に限らず、自分の表現を突き詰めて形にしようと全力で走ってきた人間は、誰かを傷つけてしまった過去を持っているのではないだろうか。
ニコラス・ケイジ演じるヒーローは、ボロボロになりながらも自分の過去を認め、自分に課せられた使命、すなわち自由を抑圧する存在と戦うことを決意する。臨死体験を味わった園監督も、ニコラス・ケイジならぬ「天の啓示」を受けてこの世に戻ったのかもしれない。
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