五代友厚はいかにして「おたずね者」から国際派ビジネスマンへ転身したのか 『青天を衝け』で描かれなかった「明治以前の五代」
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「密航者」五代友厚を幕府も黙認していた
薩摩藩は豊富な財力を背景に、その後も次々と留学生を密航させる形でヨーロッパに送り続け、五代も彼らの留学の手引きをしました。彼自身もヨーロッパを旅し、『青天~』内でも描かれたように外国と薩摩のビジネスの計画を取りまとめたり(それらがすべて実現したわけではありませんでしたが)、当時の日本人としてはきわめて珍しいほど海外文化に順応し、活躍を見せたのでした。
一方で、五代は、残念ながら幕府からは要注意人物として目されていました。幕府側からすると、五代は「密航者」にあたるからです。しかし、彼は江戸幕府の上層部にも関知されているほどの“有名人”でしたが、その存在は咎めるべき対象というより、公然の秘密のような扱いとされたようです。薩摩藩との関係を、幕府としてはこれ以上こじらせたくなかったのでしょう。
『青天~』にも登場した慶応3年(1867年)の第2回パリ万博の時には、幕府から派遣されていた外国奉行の柴田剛中(しばた・たけなか)も、パリの街なかで五代と遭遇してしまった折、見て見ぬふりを決め込んだそうです。柴田は五代の“暗躍”を知らされていませんでしたが、本能的に江戸の上層部と同じような態度を取ってしまったようですね。柴田の同行者で、五代と面識もあった岡田摂蔵(昭和期にソ連に亡命した女優・岡田嘉子の祖父)は「君たち薩摩藩士は堂々と渡航せず、こうやって密航などするから幕府から疑われるんだ!」などと食いついたのですが……。五代は「いやいや、そんなことはないよ」と冗談めかして、その場を切り抜けました。
最後まで無言だった柴田の態度はある意味、“気づかぬふりをしてくれた”ようなものだったわけですが、五代は逆に柴田を厳しく批判し、「(柴田は)帰朝の上如何(いかが)申し開き致すべきかの苦心のみ」(※『薩摩海軍史』収録の五代の手紙の一部の漢文部分をわかりやすく書き下したもの)で、そんな彼は「至極の俗物」などと罵ったそうです。つまり、「幕府が厳禁している海外密航者に出くわしてしまったのに、柴田は五代をその場で問い詰めようともせず、帰国後に幕府にどう報告しようかを思い悩んでいるだけに見えた。なんという俗物か!」と、柴田の「見てみぬふり」を非難したのでした。
当時、五代はまだ数え年で30歳の若さでしたが、すでにコミュニケーションに優れたひとかどの人物になっていたことが推察されます。これくらいが『青天~』では描かれてこなかった、明治維新くらいまでの五代友厚の略歴となるでしょうか。
薩摩藩出身の五代は熱心な倒幕論者でしたし、『青天~』は「慶喜推し」を貫いていることもあるので、五代の登場シーンがなんだか悪役っぽく見えたのは致し方なかったと思われます。
しかし、ヨーロッパから日本に帰国し、明治時代になってからの五代友厚は、渋沢栄一と同じく「経済道徳説」の提唱者であり、すべてのビジネス(金儲け)にはモラルが必要だという考えの持ち主だったことは忘れてはなりません。かつては日本史の教科書にも「明治政府から優遇された政商として、有利な立場で莫大な利益を得た」などと書かれていた五代ですが、実はこれは実態がない噂です。
五代と同郷の元・薩摩藩士で、明治新政府内で北海道開拓使の長官を務めていた黒田清隆が、自分の知り合いの経営する会社に、政府が巨額を投じて造らせた官営工場を投資額の何十分の一の「お値打ち価格」で払い下げようとし、新聞で騒がれた……という話はたしかにあったことのようです。しかし、この事件に五代は何も関わっていません。
むしろ史実の五代は、そのような悪徳商人とは真逆の活躍を見せていました。特に、停滞していた大阪の経済界を見事に立ち直らせたことで知られていますね。大阪は、幕末まで多くの藩に多額の金を貸して栄えていたにもかかわらず、明治になった途端に藩からその借金を踏み倒されたことで深刻な低迷期を迎えました。しかし、五代はその経営手腕で経済界を牽引し、復活させたのです。
そんな五代の一面が朝ドラ『あさが来た』では取り上げられたのですが、実は大阪でも『あさが来た』が放送されるまでは“知る人ぞ知る偉人”程度だったそうで、それほどにまで五代の知名度は下がってしまっていたようです。スキャンダル以外で名を残すことの難しさを痛感させられますね。
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