【24年秋ドラマ】『嘘解きレトリック』第9話 シンプルなミステリーに生きる「チート能力」の強みと緊張感の付加
#嘘解きレトリック
他人の嘘を聞き分けることができる特殊能力を持った探偵助手・鹿乃子(松本穂香)と、その雇い主である貧乏探偵・左右馬(鈴鹿央士)の日常を描いたドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)も第9話。
「月9といえば恋愛ドラマ」なんてレッテルは遠いものになりましたが、本作は2人のほのかな関係性の成熟を描きつつ、昭和初期を舞台にささやかなミステリーを語るスタイルでここまでいい感じできております。
おおよそ、左右馬の推理力と鹿乃子の特殊能力によってスパッと事件を解決する「スパっと回」と、鹿乃子がその能力についてうじうじといじらしく悩んでいる「うじうじ回」が交互に放送されていますが、今回は「スパッと回」でしたね。振り返りましょう。
■「能力を生かすぞ」という宣言
今回は珍しく、貧乏探偵・左右馬のもとに向こうから依頼がやってきます。
依頼主は、旦那を亡くしたばかりの未亡人・久さん(余貴美子)。目もくらむようなお金持ちです。
久さんには一人娘・依里(吉田美佳子)がありましたが、24年前に自宅に寄り付いていた書生と駆け落ちしてしまい、以来、音信不通となっていました。旦那の死後、駆け落ちした依里についての調査書が旦那の書斎から出てきたことから、久さんは弁護士を通じて再び依里を探し始めます。
すると、駆け落ち直後に書生は病に倒れ、依里もひとり息子を産んだ際に命を落としていました。久さんは、依里が産んだ男の子、つまりは久さんにとっての孫息子を探すために新聞に広告を出すことに。すると、2人の青年が「孫です」と言って名乗り出てきたのでした。
左右馬への依頼は、この2人のどちらが本当の孫か見極めてほしいというもの。どちらかが嘘をついているわけですから、ここは鹿乃子の出番です。2人に適当にしゃべらせて、鹿乃子が嘘を聞き分けてやればいい。「うじうじ回」では能力そのものの存在について頭を悩ませている鹿乃子が描かれますが、今回はその能力を「生かすぞ」と発端から宣言している回となりました。
こういうシンプルなミステリーになると、やっぱり鹿乃子の「嘘を聞き分ける」というチート能力には爽快感があります。スパッと嘘を見抜いて、それを左右馬が聡明な推理力で裏付けするという、いつものスキームで事件を解決。久さんは本当の孫と一緒に暮らすことになりました。
■怪しいキャラクターで緊張感を付加
今回は名乗り出た孫のうちの1人、「徳田史郎」を名乗る男(濱尾ノリタカ)のキャラクター造形が奮っていました。こぎれいで立ち回りもよく、レディーの扱いも心得ている。そして、どうやら鹿乃子に「嘘を聞き分ける能力」らしきものがあることにも気づき始めます。結果的には「徳田」の嘘は見破られ、遁走することになるわけですが、この「徳田」の堂々とした立ち居振る舞いが左右馬と同等、あるいはそれ以上の切れ者であるという雰囲気を醸し出していて、得も言われぬ緊張感が生まれていました。
そして去り際には、鹿乃子が嘘を見抜いたときに左右馬に送る合図をまねて、「今の僕の話は、(嘘か本当か)どっち?」と挑発的な態度を残していく。シンプルに、嘘をついていた人間が鹿乃子に噓を見破られただけというなんのひねりもないミステリーに、重厚な余韻を残すことに成功しています。
この「徳田」の「嘘を聞き分ける能力を見抜く能力」が、今回限りの単純な謎解きに彩りを与えるエッセンスなのか、それとも鹿乃子の能力そのものに新たな解釈を与えるものなのか、それはわかりません。なぜわからないかといえば、原作を読んでいないからです。
最初のほうは原作コミックと比較しながら見ていたんですが、途中でもういいやと思っちゃったんだよな。このドラマは十分に原作に敬意を払っているし、だいたいセリフも原作通りだし、原作とドラマの比較が単なる答え合わせにしかならないと感じたのです。要は、お話を知らない状態でドラマを見たいと思わされている。そのほうが楽しめそうだから。
『セクシー田中さん』(日本テレビ系)の件もあってコミックの実写化についてはナーバスにならざるを得ない時期に、そういう感触を視聴者に与える作品を作るというのは、これはなかなか大したドラマだなと思いますよ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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