広島大学、ミトコンドリアの障害がうつ・不安をもたらすと発見
#メンタル #鷲尾香一
うつ病に悩む人は多い。厚労省の20年度「患者調査」によると、うつ病や統合失調症など精神疾患を患う人は約615万人にも上る。広島大学の延久グループは6月28日、ミトコントリアの異常がうつ・不安をもたらすことを発見、この現象を防ぐことによりうつ・不安様行動が改善されることを証明した。
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/77719
発表文によると、さまざまなストレスはうつ病や不安障害の発症原因となる。現在、うつ病や不安障害などの気分障害と総称されるこころの病気は、新型コロナ禍に伴うストレスの多い日常生活により患者数が増加している。また、長期に渡って続く痛み(慢性痛)も非常に大きなストレスとなり、実際に何かしらの慢性痛をもつ患者は、うつ病や不安障害を発症しやすくなることが知られている。
うつ病や不安障害の治療には、抗うつ薬や抗不安薬が処方されるが、約30%の患者では薬が効果を示さない。治療は長期間にわたることから、患者の生活の質を低下させる要因となっている。このため、新たな治療薬・治療法の確立が望まれている。
同研究グループは以前から慢性痛モデルマウスがうつ・不安様の行動を示すことを見出していたため、これらをうつ病や不安障害のモデルマウスとして用いて、治療標的を探索する研究を続けてきた。また、同研究グループは、これらのモデルマウスの脳内で炎症が生じていることを確認していた。
ミトコンドリアは、ほとんど全ての真核生物の細胞の中に存在し、細胞の働きに必要なエネルギーを産生する細胞内小器官。細胞の活動に必要なエネルギーの90%以上がミトコンドリアで産生され、周囲の細胞に供給される。従って、ミトコンドリアの正常な働きは、細胞が生き生きと元気に活動し、生命機能を維持する上で重要。
また、ミトコンドリアはエネルギー産生のほか、カルシウムイオン濃度の調節、酸化ストレスの軽減などに関与している。
最近、ミトコンドリアの機能異常が慢性炎症を引き起こし、がんや認知症、様々な生活習慣病の発症に関係していることが知られているが、ミトコンドリアの機能異常がうつ病や不安障害の発症に対する関わりはよくわかっていなかった。
そこで同研究グループは、慢性痛によってうつ・不安様行動を示すマウスを用いて、ミトコンドリアの機能異常による炎症と症状の関わりについて調べた。このモデルマウスでは、脳の海馬において細胞の働きに必要なエネルギーを産生するミトコンドリアに障害が生じていることを明らかにした。
さらに、モデルマウスに対して、ミトコンドリア機能を改善するクルクミン(ウコンなどに含まれるポリフェノール)を投与すると、うつ・不安様行動が改善した。
モデルマウスの海馬では、ミトコンドリア障害に伴って炎症性物質であるⅠ型インターフェロンが増加し、脳の免疫担当細胞であるミクログリアが活性化していることを発見した。
また、Ⅰ型インターフェロン受容体に対する中和抗体をモデルマウスに経鼻投与すると、ミクログリアの活性化が抑えられるとともに、うつ・不安様行動が改善することを見し出した。
この結果、ミトコンドリア障害により炎症性物質であるインターフェロンが増加し、この反応がうつ病や不安障害の発症に重要であることを証明した。
研究グループでは、「ミトコンドリアやⅠ型インターフェロンをターゲットにした薬剤は、うつ病や不安障害に苦しむ多くの患者を救う新たな治療薬となることが期待できる」とし、「今後は、ストレスがミトコンドリア障害を引き起こすメカニズムやⅠ型インターフェロンによるうつ・不安障害の発症メカニズムについても研究を進めていく予定」としている。
研究成果は6月14日、米国科学誌「ExperimentalNeurology」(オンライン版)に公開された。
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