『だが、情熱はある』自分をさらけ出した”たりないふたり”と真逆のスピンオフ
#オードリー #南海キャンディーズ #だが情熱はある
お笑いの養成所なんかに行くと、講師を務める作家に教わることがある。
「自分がどんな人間かを知れ」
「自分の思っていることをネタにしろ」
お笑いの養成所は数あるが、おそらく似たようなことをどこでも教わるはずだ。平たくいうと「自分のキャラクターを活かせ」という意味になるのだが、ほとんどの新人芸人はこれの意味がわからない。
「自分を出す?」
「俺が憧れた漫才師たちはそうは見えないけど?」
「好き勝手ボケてツッコむだけじゃないの?」
自分をさらけ出すことと、漫才やコントが結びつかないのだ。
6月25日に最終回を迎えたオードリーの若林正恭と南海キャンディーズの山里亮太の半生を基にしたドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ系)では、「自分をさらけ出す」という言葉が何度も繰り返された。2人がどのように笑いを取る芸人なのか、どう成長してきたのか、が描かれた。
どこまでも見つめ直す自分
2021年5月、オードリー・若林(髙橋海人/King & Prince)と南海キャンディーズ・山里(森本慎太郎/SixTONES)は、12年間活動してきたユニット『たりないふたり』の解散を迎える。新型コロナウイルスの影響で無観客のネット配信で行われたライブにチケットは54000枚が売れ、2人を引き合わせたプロデューサー・島(薬師丸ひろ子)も「東京ドームで漫才やるようなもんだよ」と感慨にふける。
本番前から若林は、親交の深い島を相手に「(部屋に)島さんが入ってきてすぐにマスクつけたら感じ悪いかなと思って……」と人に気を使いすぎる自意識過剰ぶりを発揮する。対する山里は楽屋に格差がないかと訴え、メジャーを用意して広さを図ろうとするなど卑屈っぷりが全開。
どちらもらしさ満点で、まさに人間として「たりない」部分を見せつける。
最終回は解散ライブとその前日譚でほとんどが構成され、数々の「自分と向き合うこと」が描かれた。
後の人気ヒップホップユニット「クリー・ピーナッツ」(かが屋)は、「たりないふたり」に感銘を受け、「ターンテーブル触るとき手持ち無沙汰になってる瞬間がある」「マイクを持つ角度とか指の置き位置、どこがかっこええか鏡の前で試したことあります」と格好悪い部分をお互いにさらけだし、自分たちを見つめ直した。
執筆業に勤しむ若林は、「ついにゴルフを始めてしまった」と書き出す。ゴルフをするおじさんをクソだと決めつけていたが、ひょんなきっかけでゴルフにハマる。自意識過剰で世の中と迎合できなかった若林が、素直に世の中と迎合してみたのだ。
さらに母親(池津祥子)に、父親(光石研)が生きていた時代のことを聞いてみる。その世代の人間が何を求めてどこに向かっていたのか、それを知れば父親や自分のことを深く知れると思ったようだ。
山里は、俳優の蒼井優との結婚を発表。これまで非モテや妬み嫉みをキャラにしてきた山里だったが、俳優と結婚して勝ち組になってしまったことで、自分の武器を捨てなければならないと頭を悩ませる。マネージャーの高山(坂井真紀)と不仲だった相方のしずちゃん(富田望生)を食事に誘い、今後の芸風について相談する。結果、そのままでいい、無理にキャラクターを探さず、自分を見つめ直しながら続けることが大事と知る。
12年間向き合った“自分”を解散ライブで出し切る
若林も山里も原点である自分を見つめ直すことの重要性に尽力した。それが2人にとって必要なことであり、意味のある笑いになるのだろう。個性的な相方を使って笑いを取ってきた2人は、自分のキャラクターで笑いを取ることを得意としていなかった。
だが、「たりないふたり」でさらけ出すことを知った。ブレークするに連れて、自分の立場や考え方が変わっていくに連れて、さらけ出す内容も変化していき、笑いの質も変わっていった。
「俺は山ちゃんと底の底を見せ合いたいから」
「俺も同じこと思ってるよ」
「たりないふたり」結成から12年間。2人はとことん自分と向き合い、自分の中身を笑いに昇華してきたはずだ。まさに集大成となった解散ライブで、全てを出し切った若林は舞台直後に倒れてしまう。それを見た山里は、「倒れる若ちゃんのカリスマ性すごすぎない? 俺サブキャラじゃない?」と嫉妬し、どこまでも自分らしさ見せつけた。
意外な春日の素顔
興味深かったのは、春日(戸塚純貴)をメインに据えた、Huluで配信中のスピンオフ『たりてるふたり~だが、平常である~』の一幕だ。若林の家族から実家で飼っている猫の名前を聞かれた春日は珍しく言い淀む。
「家で飼っている猫には、春日というより俊影ちゃんの部分を見せてしまっているので、猫の名前を教えてしまうのは、誰にも見せていない私を知られるようで怖いんですな」
住んでいるアパートの住所まで公開していた春日だが、ピンクのベストも髪型も立ち方も全てが若林プロデュースであり、実は意外なほどに自分をさらけ出していない。しかし、その真面目な部分が行き過ぎて「言われたことをどこまでも忠実にやる」というキャラクターが、前面に出てしまった稀有な存在なのだ。
春日は、若林にも恋人にも家族にも自分を5%ほどしか見せていないそう。さらには、自分自身でも5%くらいしか自分を理解できていないと分析もしていた。
これまで何も考えず何も生み出さず、ただただ“春日”というキャラクターを全うしてきただけの春日が、実は一番冷静に自分と向き合っているのではないかと思わせてくれるシーンだった。
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