三浦透子、映画的ヒロイン像を打ち砕いて“普通”を問う『そばかす』
#映画 #三浦透子
日本国内だけではなく、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞など、海外賞レースにおいても世界中から注目された映画『ドライブ・マイ・カー』(2021)。そんな同作で、多くを語らずとも、細かい表情の変化でその人物の奥行を出して見せたのが俳優・三浦透子だ。
彼女の初単独主演映画『そばかす』が、12月16日より公開される。
いわゆる映画的な“ヒロイン”像からは脱却したようなテイストがリアルな人間描写の『わたし達は大人』、『よだかの片想い』に続く、「“へたくそだけど私らしく生きる”、等身大の女性のリアルをつむぐ映画シリーズ」、(not) HEROINE moviesの第3弾作品だ。
今作は、周りから差別や偏見を受ける同性愛というテーマで繊細な視点と激しい葛藤を描いた映画『his』(20)の脚本家、アサダアツシの原作・脚本・企画。そのこともあって、今作も“普通”で縛ろうとしてくる人々の中に生きる“マイノリティ”の苦悩が描かれており、作家性が大きく反映された作品ともいえる。
また、三浦透子の演技もさることながら、来年1月公開の『そして僕は途方に暮れる』や、今年公開された『もっと超越した所へ。』、『コンビニエンス・ストーリー』に出演し、演技派俳優としての地位を確立しつつある前田敦子の演技からも目が離せない。
【ストーリー】
私・蘇畑佳純(そばた・かすみ)、30歳。チェリストになる夢を諦めて実家にもどってはや数年。コールセンターで働きながら単調な毎日を過ごしている。妹は結婚して妊娠中。 救急救命士の父は鬱気味で休職中。バツ3の祖母は思ったことをなんでも口にして妹と口喧嘩が絶えない。そして母は、私に恋人がいないことを嘆き、勝手にお見合いをセッティングする。私は恋愛したいと言う気持ちが湧かない。だからって寂しくないし、ひとりでも十分幸せだ。でも、周りはそれを信じてくれない。恋する気持ちは知らないけど、ひとりぼっちじゃない。大変なこともあるけれど、きっと、ずっと、大丈夫。進め、自分。
多数派だからって“普通”なの?
異性との出会いがないわけでもない、きっかけもないわけでもない。同性愛者というわけでもない。ただ、恋愛感情も性欲もない。彼女にとってはそれが“普通”で、それが心地よい。変えたいとも思わない。
世間は“自分らしく生きろ”と言うわりには、社会的概念に縛られた範囲内でものを考え、行動しろと言う。自分らしいって何? それは世間が決めることなのだろうか。
周りがしているからと結婚させようとしてくる母。友達と一緒に住もうとするとレズビアンだと決めつけてくる妹。社会のシステムは、常にマジョリティによる価値観で動かされている。でも、それが“普通”とされることに違和感を感じる人は多い。
ところが、ひとたび声を上げると孤立してしまう。だったら勇気を出すよりも、無難に生きる道を選ぶことは、決して逃げているわけではない。にも関わらず、それすらも邪魔される世の中。
そうやって、なぜ人は人を“普通”で縛ろうとするのだろうか。説明ができないのにも関わらず、多数派だからというだけで”あたりまえ”や”常識”になってしまっている価値観や概念の不安定さを、真っ向から描いている。
作中の印象的なセリフで「生きている以上、恋愛からは逃れられない」というものがある。これは今作のテーマを言い表しているようなセリフのひとつだが、恋愛なんて、特に現代においては自由なもので、そんな呪縛のようなものではないはず。
どこかに理解してくれる人は必ずいるし、恋愛や結婚という概念に縛られず、無理して他者と交じり合ったり、同調したりしない、平行線な関係だってあってはいいのではないかという希望も同時に描かれている。それは微かな光のようで、“普通”について悩む人の肩の荷を少しだけ降ろしてくれるかもしれない。
一方で、作中の中でも少し触れられているのだが、子どもに多様性をどう教えていくべきかという問題もある。感受性が豊かな子どもたちに、”普通”という概念をどうフラットに伝えていくかなど、今こそ考えるべき議題が詰まった作品ともいえるだろう。
『そばかす』
12月16日(金)より、新宿武蔵野館ほかに全国公開
■スタッフ・キャストクレジット
監督:玉田真也
企画・原作・脚本:アサダアツシ
出演:三浦透子 前田敦子 伊藤万理華 伊島空 前原滉 前原瑞樹 浅野千鶴
北村匠海(友情出演) 田島令子 坂井真紀 三宅弘城
主題歌:「風になれ」三浦透子(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
配給:ラビットハウス
(c)2022「そばかす」製作委員会
公式HP:https://notheroinemovies.com/
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