SixTONES『CITY』の円環性とジャニーズが貫くCD=サブスク未解禁たる秘境
#音楽 #ジャニーズ #SixTONES #CITY
サブスクリプション(以下、サブスク)や配信など、オンラインで音楽を楽しむことが多い昨今、わざわざCDを買う必要はない。そもそも再生機器を持っていない人も多いはずだ。一方でレコードの復権が叫ばれて久しくなり、米国では2020年、34年ぶりにレコードの売り上げがCDのそれを上回った。同じく米国におけるCD売上が昨年、16年ぶりに1.1%と微増ながらも回復したというニュースもあるが、もはやCDは世界的に見れば“マイノリティ”なのである。
一方の日本ではいまだにCDが“マジョリティ”だ。要因はひとつではないが、00年代にアイドルグループが「楽曲をヒットさせてCDを売る」というビジネスモデルを崩壊させたことは大きい。特典や握手券などの付加価値でファンが複数枚を購入する仕組みは売上増をもたらしたが、CDに刻まれた音楽の価値は失われた。
そして今日、サブスクをはじめとしたオンラインサービスの充実により、おおよそ誰もが今売れているものから、レア盤までを聴けるようになった。これによって音楽は民主化されたといえるが、しかしCDがなければ聴けない新譜も確かに存在する。そのひとつが、今年1月5日に発売されたSixTONESの2ndアルバム『CITY』だ。
本作をはじめ、ジャニーズグループの楽曲はそのほとんどがサブスク未解禁。ショートヴァージョンなどがYouTube公式チャンネルで聴けたりもするが、全容を理解するためにはCDが必須である。本作の一部はネットでも聴けるが、それだけでは全容がつかめない。CDを買わないと音が聴けない、という状況は一周して新鮮だ。それはある種の秘境。これだけサブスク解禁が進んだ今、未解禁を貫くことが秘境を生む可能性があることをSixTONESの『CITY』は教えてくれる。
このアルバム全体のコンセプトは「一日の時間の流れの中で繰り広げられる、何気ない日常の出来事や物語が集まる場所=街(CITY)」。では、通常盤を題材にして各楽曲に触れていきたい。
夜から朝、気分の浮き沈みをなぞる曲構成
物語の始まりは夜。オープニングは常田大希(millennium parade、King Gnu)が作詞・作曲・編曲を担当した「マスカラ」。歌われるのは涙でぐしゃぐしゃになった目元のまま飛び出す、2人のラブストーリーだ。この楽曲で特筆すべきことは、唯一ミックスとマスタリングのエンジニアが他の曲と異なる点である。
昨今の音楽で大事な要素のひとつにサウンドデザインが挙げられるが、ミキシングエンジニアはKing Gnuの作品でも手腕を振るう高橋ユキ、マスタリングは米国で若手からベテランまで数多くの名盤に関わり、最近ではRemi Wolf『Juno』も手掛けたMike Botti。アルバム全体のなかでも音の質感にフォーカスして聴くとまた違う楽しみが見いだせるだろう。
続く「Rosy」でBPMを上げ、ポップな「フィギュア」を挟むと、アルバムに深夜が訪れる。「Interlude -Midnight-」から連想するに、パーティやクラブに来た場面だろうか。そのイメージ通りに楽曲はディスコナンバー「Odds」、EDM調の「WHIP THAT」、チルな「Everlasting」と展開。物語は音楽的には踊り明かすようでいて、歌詞的には熱情を燃やすようにして夜が明ける。
全体で最も音楽的な多様性があふれる朝パートで光るのは「Ordinary Hero」だ。作曲はAndy LoveとALYSA、歌詞はgbによるもの。特にBTSらを擁するHYBEの日本レーベル・HYBE LABELS JAPAN所属のプロデューサー・ALYSAが関わっている点に注目したい。近ごろはASTRO「After Midnight」と「Waterfall」などで手腕を振るう彼女の参加もあり、アルバム中で最もK-POPに近接した楽曲に仕上がっている。ストーリーとしては朝の目覚めから、気分の浮き沈みを経て外へ出るという印象。
最後の場面は夕方。80年代テイストな「Fast Lane」やゴスペル調の「Good Times」から始まる。その後は(通常盤のみではあるが)ギターの音を中心に展開するミニマルな「Cassette Tape」、ダークな質感の「Dawn」、ブラスが入る軽快な「Strawberry Breakfast -CITY ver.-」が彩る。最後に朝食が来ると若干ミスマッチではあるが、そこはボーナストラックということで目をつむるとして、未来に向かって飛び出して行く幕切れだ。
このように、全体として多様性あふれる音楽的内容となっている。
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