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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 創作物と現実から同性愛を説く『彼女が好きなものは』

映画『彼女が好きなものは』「創作物」と「現実」の両面から同性愛を説いた理由

映画『彼女が好きなものは』「創作物」と「現実」の両面から同性愛を説いた理由の画像1
C)2021「彼女が好きなものは」製作委員会

 2021年12月3日より、『彼女が好きなものは』が公開されている。本作は実写ドラマ化もされた、浅原ナオトによる小説の映画版だ。

映画『彼女が好きなものは』「創作物」と「現実」の両面から同性愛を説いた理由の画像2
C)2021「彼女が好きなものは」製作委員会

 結論から申し上げよう。本作は「ここまで、『創作物』と『現実』の両面から同性愛を誠実に描いた映画が、今まであっただろうか」と驚嘆し、そして涙を流すばかりの、1人でも多くの人に観てほしいと心から願う大傑作だった。

 特に、劇中の登場人物と同年代の若い人にこそおすすめしたい。同性愛者の苦悩や、彼らを取り巻く人々の物語からは、きっと一生大切にしたくなるほどの教訓を得られるだろう。思春期(前)の子どもを持つ親御さんが観ても、きっと新たな学びがあるはずだ。PG12指定相応の性的な話題やベッドシーンもあるが、それも作品に間違いなく必要なものだ。

 また、エンドロールの最後に重要なおまけがあるので、見逃さないよう最後までに席に座っておいてほしい。事前に知っておくのはそれだけで十分であるが、さらにネタバレに触れない範囲で、本作の素晴らしさを記していこう。

普通の幸せを願うゲイの少年と、BL大好きな少女の物語

 あらすじはこうだ。⾼校⽣の安藤純(神尾楓珠)はゲイであること隠しつつ、妻子を持つ年上の男・誠(今井翼)と密かに関係を持っていた。ある日、純はクラスメイトで美術部員の三浦紗枝(山田杏奈)が、男性同⼠の恋愛を描いた、いわゆる「BL」マンガを書店で買っているところに遭遇する。紗枝は「誰にも言わないで!」と純に口止めをお願いするが、その秘密を共有したことで二人は急接近し、紗枝はいつしか純に恋愛感情を抱くようになる。

 重要なのは、主人公がゲイであることを隠して「普通」の幸せを手にしようとしていること。家族がいる年上の男とインモラルな情事を重ねている一方で、異性と結婚して、子どもをもうけて、家庭を築き、母に孫の顔を見せてやるという「世間一般の当たり前の人生」をあきらめることができない。だからこそ彼は割り切って女の子とも付き合おうともするのだが、自身の本当のセクシュアリティからは逃れられず、さらに苦悩することになる。

 さらに重要なのは、もう1人の主人公と言っていい女の子が、BL大好きな「腐女子」であること。そのBLマンガは初めこそ(すんなりと性行為の快感が得られたりすることなどから)「ファンタジーだなあ」と批判的になじらたりもするし、中学時代に腐女子であることがバレたせいで友だちを全員失うという苦すぎる経験も語られている。ゲイの当事者の苦悩と同列に扱えるものではないが、彼女もまた肩身の狭さを感じているのだ。

 いわば、本作はリアルなゲイの当事者と、BLに萌えている腐女子の両面から、同性(愛)を愛する人の苦悩を描いている、というわけだ。もちろん、その2者の悩みは本質的にはまったく異なるものだが、物語はやがてそれぞれの「理解」を導き出していく。

 本人が生きづらさを抱えた上に、世間の無知や誤解が引き起こす偏見にさらされ続けるゲイの当事者。ファンタジーを超えて理想郷のように描かれることもある、BLという創作物。本作『彼女が好きなものは』は、「そのどちらもとても尊いものなのだ」と、それぞれへの「愛情」も含めて肯定してくれるのだ。

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