ミステリーとしては反則? 考察ドラマ『天国と地獄』視聴者が脚本家・森下佳子に勝てない理由
#綾瀬はるか #高橋一生 #天国と地獄~サイコな2人~
東大卒として知られる脚本家・森下佳子。 人の心や人を動かすものを学びたくて宗教学科へ進学したのだそう。そして脚本家となった後にその学びから「人にはそれぞれの理由と行動原理がある、すべての登場人物にそれがあるとする脚本を目指そう」と思うようになったのだという。
そんな森下が描くドラマ『天国と地獄~サイコな2人~』(TBS系)。毎週日曜日の放送後、ネット上にはさまざまな考察が繰り広げられ視聴者が盛り上がるミステリー要素満載のドラマだ。綾瀬はるか演じる刑事・望月彩子と、高橋一生演じる連続殺人鬼・日高陽斗の魂が入れ替わってしまうストーリーだが、回を追うごとに次々と新たな謎が展開され「展開が全く読めない」「わからなさが癖になる」「どうやったらこんな作品が作れるのか……森下さんが怖いわ」などと上々の評判だ。2月21日に放送された第6話の平均世帯視聴率も14.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、高い水準をキープし続けている。
だが、このドラマ、ただ推理を楽しむ考察ドラマではない。入れ替わりの謎に加え、月と太陽の伝説と伝説の花、呪いの石、登場人物に隠されている数字などなど、盛り込まれた多くの謎が解かれないままに、新人物が次々に登場し、さらに日高以外の真犯人がいるのではという大きな謎も浮上。視聴者は「もはや考察すらできない」「どんな分析考察繰り広げようと、森下さんの脳内には敵う気がしない」と大混乱の様子。
どうも『天国と地獄』は、推理を楽しむミステリードラマとは一線を画しているようだ。ミステリーには守るべき大原則、というものがある。例えば犯人は物語の始めまたは前半に登場していなければならない、ということ。『天国と地獄』では中盤、第6話になって突然真犯人とおぼしき「クウシュウゴウ」の存在が発覚、その正体とされる十和田元(田口浩正)や「東朔也」という新人物まで登場する。これはミステリーとしては反則技、禁じ手ではないか。これまでに散りばめられてきた謎を並べて、考察をしていた視聴者が大混乱するのも無理はない。
そもそもが入れ替わりというファンタジーから始まっている時点で、起こりうる範囲がどこまでかすでに予想ができず、ミステリーとして成立しにくい。だが、森下のことだ、そういったことなどすべて承知の上なのだろう。もしかしたら視聴者に謎を解かせる気はさらさらないのでは、という気さえしてくる。
第5話のラストに登場し、ネット上では真犯人かと騒がれた戸田一希なる人物も、第6話であっさり覆されるというミスリード。多くの謎を散りばめて伏線と思わせておいて、視聴者は結局、森下に煙に巻かれ翻弄されている。謎を解くための鍵を隠したまま、ミスリードを含んだ謎を次々に追加し、視聴者を翻弄するのが森下の狙いなのか、と疑いたくなるのだ。
それでも視聴者の中には「アズマサクヤは湯浅和男(迫田孝也)?(以前話に出た)父親が“かずま”だとしたら、yuasakazuma→azumasakuya」とアナグラムになることから湯浅が真犯人では、と考察するツワモノもいる。それならば1話から度々登場している人物なので、ミステリーの原則には当てはまる。だが、これもまた森下が仕掛けたミスリードのひとつかもしれない。
とにかく、私たちは森下の手の上で転がされているに過ぎないのだ。謎は次々に追加され、より深まっていく。『天国と地獄』はその謎を解くミステリーではなく、翻弄され裏切られることを楽しむドラマなのかもれない。
すべての登場人物の行動には理由がある、という森下。2月28日に放送の第7話からは物語も佳境に入り畳み掛けるような怒涛の展開が予想されるが、日高がなぜ殺人に関わるのか、そこには何か深い理由があることは間違いない。ここまで多く散りばめてきた謎や伏線を、これから森下はどう回収していくのだろうか。本領が発揮されるのは、ここからだ。
■番組情報
日曜ドラマ『天国と地獄~サイコな2人~』
TBS系/毎週日曜日21時~
出演: 綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹ほか
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木 彩
プロデュース:中島啓介音楽:髙見 優
主題歌:手嶌葵「ただいま」(ビクターエンタテインメント)
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/
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