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「シュワちゃんの家に爆発物仕掛けた」 いたずらではすまない名俳優への脅迫

アーノルド・シュワルツェネッガー(写真/Getty Imagesより)

 米国では、11月の第4木曜日は「感謝祭(Thanksgiving)」の祝日だ。日々の生活の糧となる大地の恵みに感謝し、家族や親しい友人とともに食事をして過ごす習慣がある。レストランや商業施設も休むところが多く、街の静けさはクリスマス以上である。

 今年の「感謝祭」は28日だった。この日、カリフォルニア州ロサンゼルスの高級住宅地ブレントウッドにある俳優アーノルド・シュワルツェネッガー氏の自宅は静けさを打ち消すかのように、朝から物々しい雰囲気に包まれていた。

 「シュワルツェネッガー氏の自宅の郵便受けに爆発物を仕掛けた」との通報がロサンゼルス市警察本部(LAPD)にあり、多数の警察官や爆発物処理班が詰めかけていた。

 警察官は不審物がないかくまなくチェックした。爆発物捜索のために特別に訓練された警察犬も現場に投入された。大邸宅を隅から隅まで確認するには時間がかかる。捜索は数時間続いた。

 シュワルツェネッガー氏は警備会社と契約しており、専門の警備チームもある。24時間、邸宅内の複数カ所を監視している防犯カメラも設置されている。結局、爆発物らしきものは見つからなかった。

 その時、シュワルツェネッガー氏は通いなれた近くのトレーニングジムにいた。「感謝祭」の祝いの宴の前に筋力トレーニングをしていた。

 爆発物がなかったことが確認された後、シュワルツェネッガー氏はジムから姿を現した。運営資金の一部を寄付しているスポーツイベント「Arnoldo Classic 2025」の黒いTシャツを着て、愛用のスポーツタイプの自転車を引っ張って出てきた。ここではコメントをしなかったが、祝日の捜索に感謝の意をLAPDに伝えたという。

 LAPDは悪質ないたずらと断定した。通常では、実際に被害がなかった今回のような場合、通報者を特定するところまで捜査は進まない。凶悪犯罪が多すぎて、警察組織内で物理的に手が回らないからだ。しかし、今回の事件についてLAPDは捜査を続けているという。シュワルツェネッガー氏は元カリフォルニア州知事でもあり、政治的な事件につながる可能性があるからだ。

 米国では11月5日の大統領選以降、「爆発物を仕掛けた」という脅迫行為が全国規模で急速に広がっている。

 米連邦捜査局(FBI)などによると、投票当日、投票所に爆弾を仕掛けたという脅しは約30件にのぼった。ロシア国内から発信されたメールでの脅迫が複数あったという。

 トランプ氏が当選し、早々に閣僚選びを進めたが、トランプ氏の政権移行チームはシュワルツェネッガー氏の自宅に脅迫があった前日の11月27日、国連大使に指名されたエリス・ステファニク氏や環境保護局長官に指名されたリー・ゼルディン氏らの自宅で爆弾騒ぎがあったことを明らかにした。

 また「感謝祭」当日には、コネチカット州選出の民主党のクリス・マーフィー上院議員と5人の同州選出民主党下院議員が「自宅に爆弾を仕掛けた」との脅迫を受けている。

 いずれの事件も、爆発物などは発見されていないが、捜査当局は背景に分断が進む米国での政治的対立があるとみている。

 ただ、ほぼ同時に起きたシュワルツェネッガー氏のケースは、閣僚候補や国会議員への脅迫よりも状況は複雑だ。

 シュワルツェネッガー氏は共和党候補として2003年のカリフォルニア州知事選に立候補し、民主党の牙城を突き崩して当選した。その後、2期8年にわたって知事を務めた。

 共和党ではあるものの、映画界の人気スターでもあることから、リベラルな一面があった。中絶や同性愛の権利に理解を示し、地球温暖化問題の重要性を訴えていた。

 このため知事時代から共和党の保守派から攻撃を受けることが多々あった。特に中絶の問題については保守派から厳しく突き上げられていた。

 ニクソン元大統領のスピーチライターを務めたことで知られる保守派の作家で俳優のベン・スタイン氏が、シュワルツェネッガー氏の知事在任中にテレビのインタビューで「あいつは本当の共和党員ではない。なぜなら中絶に賛成だからだ」と手厳しく批判したことは、保守派の間で現在も語り草となっている。

 そのシュワルツェネッガー氏は、今回の大統領選では民主党候補のカマラ・ハリス氏を支持することを公表した。投票日直前の10月30日になっての支持表明で共和党保守派を怒らせた。

 こうした中でのシュワルツェネッガー氏の自宅での爆発物騒ぎは、政治的分断の深まりでは説明がつかない、社会の暗部が浮き彫りになった事件としてLAPDはとらえているようだ。

 「爆弾を仕掛けた」という脅迫事件は年間ベースでも急激に増加している。米政府のまとめでは、2023年には3203件あり前年に比べ26%増加した。2019年は1083件だったことから4年で約3倍に増加したことになる。

 脅迫する側は、当事者が怖がり、周囲が混乱することを楽しいこととして見ている。脅迫が当たり前のように起きれば脅迫する側が「わくわく」する気持ちは弱まり、より強い刺激を求めるようになる。爆弾脅迫の件数が増えれば増えるほど、本当の爆弾事件に近づいて来ると米国の捜査関係者は懸念している。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

ことといとおる

最終更新:2024/12/07 10:00
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