『光る君へ』が描かなかった藤原顕光による道長への怨念、そして周明という道長の代理品
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まひろにとって周明は道長の代理品なのか?
それから数年後、先に死んでいた延子と顕光が悪霊コンビを結成し、道長の周囲で暴れまわるようになりました。顕光と延子は道長の娘・寛子を襲い、絶命させたといわれます。さらに顕光と延子の悪霊は、敦良親王(後一条天皇の弟)に嫁ぎ、臨月だった嬉子(六女)にも襲いかかり、第一王子親王(後冷泉天皇)の出産2日後、呪い殺すことに成功しました。
妍子(次女・倉沢杏菜さん)や後一条天皇も顕光と延子の霊が殺したと囁かれますし、健康で長命だった彰子(長女)を例外に、多くの道長の関係者が顕光・延子の祟りに苦しめられたのでした。
こういう平安時代の「闇」の部分がまったく描かれなかったことも、本作『光る君へ』の印象が「きれいだけど、浅い」に留まった原因ではないか……と思うのです。
作中では、倫子に命じられた赤染衛門(凰稀かなめさん)が描くことになった道長の「栄華の物語」こと『栄花物語』で悪霊になったことはもちろん、その後も多くの書物で藤原顕光といえば「悪霊左大臣(『大鏡』)」、「悪霊左府(『宇治拾遺物語』)」などと語り継がれるヒール(悪役)となり、恐れられた存在なんですね。出演期間が長いわりに存在感が薄いドラマの藤原顕光というキャラからは、想像もつかないという方が多いのではないでしょうか……。
薄さといえば、道長とまひろ(吉高由里子さん)の関係も長いわりにはそうでした。『源氏物語』を完結させ、旅に出ると言いだしたまひろに道長は「行かないでくれ!」と取りすがったものの、「これで終わりでございます」と手を振りほどかれてしまっていました。
ドラマではまひろの娘・賢子(南沙良さん)は道長との子という設定になっていますが、突発的に盛り上がって何度か男女の仲になった以外、いつまでたっても生煮え感というか、関係が煮詰まることなく終わってしまい、残念です。
放送開始前の二人は「ソウルメイト」とされ、いざ蓋を開ければ、男女の仲にはなってもとくにそれで距離感が変化せず、「恋人」ではないし、「セフレ」でもなく、「親友」でもない。そもそも求めあっているのかも微妙な宙ぶらりんの関係が続き、何だったのかよくわからないままでした。言うなれば、はずみでセックスしたことがある異性の「友だち」でしょうか。「友だち」という日本語のなんと便利なことよ。
外道の中の外道だった史実の道長を、ドラマでは正義漢の「光る君」として描こうとしたことが最大の過ちだったのかも……。結局、これまでの『光る君へ』というドラマは愛やら権力やらに執着する人間の「闇」を排除しすぎた結果、「光」の部分も描けぬままだったということかもしれません。
次回・46回「刀伊の入寇」のあらすじを確認すると、史実の事件をいちおうタイトルにしているものの、内容はドラマオリジナルの要素が強そうです。正直、周明(松下洸平さん)というキャラもまひろにとっては道長の代理品だった気がしますが、ここらでまひろと周明の「大人の恋」をビシッと描き、「恋愛ドラマの達人」という大石静先生の世評を裏切らぬフィナーレにつながることを期待するばかりです……。
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