『おむすび』第45回 関口メンディーのフィジカルだけしか「説得力」がないのです
#おむすび
ドラマを愛せるかどうかというのは、その登場人物を信頼できるかどうかから始まると思うんですよね。この人の話をもっと聞いてみたい、この人の過去をもっと知りたい、この人の行く末を追いかけたい。そういう気持ちの前提として、まず信じるに足る人物であるかどうか、言っていることに一貫性があるかどうか、真剣であるべき場面で真剣になれるかどうか、ごまかしていないか、ウソをついていないか、手を抜いていないか、必要以上に他人に甘えていないか、そういうひとつひとつの積み重ねによって視聴者の信頼を得ていく作業というのが、ドラマを作る人がまず考えるべきことだと思うわけです。
信頼できない人とは距離を取りたくなるし、見放したくなるものです。それは実生活でも、ドラマでも同じです。
NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』も第9週「支えるって何なん?」が終わりました。今週は主にナベさん(緒形直人)とサッチン(山本舞香)がプリプリと邪気を振りまいていましたが、2人とも少しは元気になったようでよかったです。
「金曜に説明するから、ちょっと待ってて!」
このドラマはずっと、そういう作劇をしているんですよね。金曜にいい感じに回収すれば、月曜から木曜まではどれだけ視聴者に不快な思いをさせてもいいと思ってる。すごく視聴者に対して、必要以上に甘えていると感じます。
第45回、振り返りましょう。
■サッチン、おまえもか
いつになくよくしゃべったサッチン。高校時代に陸上部の顧問が厳しくて、疲労骨折したり摂食障害になったりと、いろいろ大変だったようです。その経験から、つらい思いをするアスリートたちの力になりたいと思って栄養士を目指した。誰よりも勉強しているという自負もあるし、自分がいちばん理解しているという自信もある。
それはいい。
前回、翔也(佐野勇斗)に渡していた献立が圧倒的なカロリー不足であることに気付いた結ちゃん(橋本環奈)、学校に早く来て献立の見直しをしています。
そこにサッチンが現れると急に泣き出し、見かねたサッチンが献立作りを手伝うことに。その理由は「半べそかかれたらほっとけへんやん」とのことで、チョロいなって感じですが、まあこれもいいや。
具体的な献立を作り直すにあたって、サッチンは結ちゃんに翔也の体重を尋ねます。それに体脂肪率と筋肉量、どんな体作りをしたいかというビジョン、確かに、アスリート向けの献立を作るなら必要なデータなのでしょう。結ちゃんはまったく何も把握していなかったので、おそらく「19歳男性」の平均的な消費カロリーの中で栄養バランスを取ることだけやってたんでしょうね。ひでえ話だけど、これもとりあえずスルーします。
「月曜日からもう一回考えよ」
そう言ってカバンから参考書などを取り出し、サッチンは献立を考え始めるのでした。
いや、いや、いや、今まさに体重や体脂肪率、筋肉量やビジョンを加味して献立を考える必要があると言った人間が、それを把握せずに何を作るつもりなのか。
「それがわかんなきゃ話になんないから先に聞いといて」もしくは、「質問事項はこれとこれとこれ、今メールして」。
その段取りを、なぜ飛ばしてしまうのか。この瞬間、サッチンは偉そうに御託だけは並べ立てるけど、実務になると途端にいい加減になる人として人物像が確定してしまうわけです。あれだけプリプリと不平不満を振りまいておいて、それを逆転させるはずの金曜日の回で、完全に空振りしてる。さらに信頼を失っている。知識と栄養学に対する誠意だけが長所だったはずのサッチンの、いいところが何もなくなっている。
それをもって結ちゃんが「サッチンもギャルやん」なんて言い出すあたりでは、ドラマの根幹であったはずの「ギャル魂」でさえ「偉そうに御託だけは並べ立てるけど、実務になると途端にいい加減になる人」と再定義されてしまっている。絶望的な脚本の手抜かりです。
■ナベさんもなぁ
結パパ(北村有起哉)がナベさんのところに靴を持ち込んで修理を依頼することで、ナベさんが息を吹き返すくだりにもいろいろ言いたいけど、もういいや。
「神戸に暮らす人らの心の復興はまだ遅れとるんですわ」という市役所の人の言葉を具現化した人物ってことなんだろうけど、その役割をナベさん1人に背負わせすぎたことでキャラクター造形に失敗したということなんでしょう。「神戸に暮らす人ら」って言ってるんだから、その「人ら」みんなにちょっとずつ「今でも傷が癒えていない」という描写があって、特にナベさんがキツイという話なら納得できるんですが、ここまで描かれた限りで判断すると、このドラマの中で震災を一番引きずっているのはナベさんで、2番目が結ちゃんになってしまっている。むしろ「ナベ以外の心の復興は完了済みです」と、ドラマ自体がそう主張してしまっているんです。だから、ナベさんだけが悪目立ちする。市役所の人の言葉とドラマの描写に矛盾が発生している。また視聴者に行間を読むことを強いている。甘えている。
またどうせ来週以降に「みんなの傷も癒えてないよ」とやるんでしょうけど、この全部後回しにする手癖はどうにかならないのかね。この「後でやるから待っとけ」っていうスタンス、これこそ『おむすび』というドラマの最大の甘えだと思うよ。簡単に次も見てもらえると思うなよ。当たり前じゃないからな。
第9週、「支えるって何なん?」の答えは「支える相手の体重を把握しましょう」ということで一応の結論を見ました。そして、関口メンディーのフィジカルだけが異様な説得力を放っているのでした。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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