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『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』公開記念インタビュー

50歳を迎えたオートレーサー森且行に密着 大怪我から奇跡の復活ドキュメンタリー

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50歳になった森且行。「もう一度、日本一になる」のが彼の目標だ

「いつ死んでもかまわない」

 オートレースの世界を舞台にしたドキュメンタリー映画『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』の中で、レースに挑む森且行は真顔でそう語る。

 死を意識しながら、自分の職場へと赴く森且行。今の日本に、そんな覚悟で仕事に取り組む人はどれだけいるだろうか。人気アイドルグループ「SMAP」のメンバーでありながら、1996年に芸能界を辞め、オートレーサーに転身。2020年11月、実力日本一のレーサーを決める「日本選手権」で初優勝を果たすも、翌年1月にレース中の落車事故により、腰椎破裂骨折、骨盤骨折の重傷を負う。一生車椅子生活になってもおかしくない状況だった。

  11月17日に放映されたドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)では、大怪我を負った森且行が復帰から再び日本一を目指す姿が伝えられた。今回のドキュメンタリー映画では、彼がなぜそこまでオートレースの世界にこだわるのかを、より深掘りし、森且行の人間像に迫っている。

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オートレーサーごっこに夢中になっていた公園を再訪。屈託のない表情を見せる

森且行が「SMAP」を脱退し、オートレーサーになった理由

 オートレースは「オーバル」と呼ばれる楕円形のサーキットを、最高時速150kmで競い、コーナーを激しく攻め合うことから「走る格闘技」とも称されている。競馬、競艇、競輪とある国内の公営ギャンブルの中では、最もマニアックな競技だろう。

 多くの人が疑問に思ったはずだ。なぜ、大ブレイク寸前だった「SMAP」を脱退し、危険なオートレースの世界へと挑戦したのか。今も元メンバーたちとは連絡を取り合うなど、友好関係が続いているにもかかわらずだ。「オートレーサーになるのが子どもの頃からの夢だった」と森且行は芸能界引退時に語っていたが、彼がオートレースに憧れるようになった理由が本作では明かされている。

 森且行はひとつ年上の兄・久典と非常に仲がいい。2人して小さな公園に向かう場面がある。この公園で幼き日の兄弟は自転車に乗って、オートレースごっこに夢中になっていた。当時、兄弟の実家には両親がおらず、親戚の家を転々としていたと明かす。そんな兄弟にとって、オートレース場は特別な場所だった。父親や兄と一緒にレースを観戦していた森且行の目には、カラフルなレースウェアを着たレーサーたちが『ゴレンジャー』のようなスーパーヒーローに映ったという。森且行にとってオートレースは、家族で過ごした幸せな記憶、心をときめかした原体験の場所だった。

 手術を受けた森且行は身体中に金属ボルトを埋め込められながらも、復帰のためのリハビリに努める。トレーニングに励む森は、2024年2月に50歳になった。現役を引退してもおかしくない年齢だ。しかし、そこがオートレースの世界の深淵さであり、彼が今なお魅了され続けている由縁だろう。75歳のオートレーサー・篠﨑実が活躍するなど、レーサーとバイクが一体化して競い合うオートレースの沼はとても深い。カメラは森且行を中心に追っているが、森が所属する「川口オート」を中心にしたオートレース界の人間くささが伝わってくるのも本作の魅力だ。

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入院中の森且行。体には24本の金属ボルトが埋め込まれていた

懸命なリハビリは自分のためだけではなかった

 TBSスパークル所属の穂坂友紀監督は、3年間にわたって森且行をカメラで追い続けている。TBSの朝の情報番組『あさチャン!』(2014年~21年)の総合演出を務めていた際に、リハビリ中だった森をインタビューしたことが密着取材の始まりだった。

穂坂「朝の情報番組が終わることになり、番組の最後に森且行さんを独占インタビューできるといいねということになったんです。普通に企画書をディレクターが4~5回送っても断られていたので、ダメもとで私が手書きの手紙を送ったんです。怪我をする前に番組MCと対談することが決まっていたので『あの時の約束を果たしていただけませんか』と。すると森さんから電話があり、取材OKになったんです」

 この逸話からも、森且行が「約束」をいかに重んじているかが分かる。森が日本選手権で優勝したのも、「SMAP」のメンバーたちと「お互いに日本一になろう」と約束を交わしたからだった。過酷なリハビリに耐えることができたのも、手術に尽力した石井桂輔医師、リハビリを担当した粂田幸祐療法士に対し「絶対に復帰しますから」と約束したからだ。そして、ファンのため、自分のために加え、もう1人、森が復帰しなくてはいけない相手がいた。

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一生車椅子でもおかしくない状況から、懸命なリハビリを続けた

穂坂「自分のためだけだったら、あそこまでリハビリに打ち込めなかったんじゃないでしょうか。森さんが大怪我をした際、同じレースで落車した新井恵匠さんに対する誹謗中傷が酷かったんです。落車の責任は新井さんにはないことはオートレースの世界を知っている人間は分かっていましたが、このままでは新井さんがレースに出られなくなってしまうことを森さんは心配し、それもあって絶対に復帰すると決めたんです」

 穂坂監督によると、森且行は後輩レーサーが悩んでいると相談に応じるなど、とても面倒見がいいそうだ。先述した大先輩の篠﨑実からも森はかわいがられているという。レース中は火花を散らし合う競争相手だが、レースが終わればお互いを励まし、高め合う、アットホームな人間関係がカメラからも伝わってくる。

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愛車を自分の手でメンテナンスする森且行。バイクへの愛情が伝わってくる

レース前は体重を削ぎ落とすストイックさ

 SMAP時代には関心がなかったという穂坂監督だが、森且行の取材を始め、レーサーとしてのストイックさとレース場から離れると屈託のない笑顔を見せるギャップのある人柄に惹かれたそうだ。

穂坂「最初は密着取材も断っていた森さんですが、番組が放送されたことで自分のリハビリ状況を心配していたファンに近況を伝えることができると分かり、その後は認めてくれました。私が回すカメラに向かってというよりは、カメラの向こうにいるファンたちに対応してくれていたように思います。身長177cmある森さんは普段は体重60kg近くあるんですが、レース前には55kgに体重を落とします。少しでも軽い方がレースは有利になるからです。これまで多くの人を取材してきましたが、あそこまで自分に対してストイックな人は、他にはいないんじゃないでしょうか。子どもの頃から憧れていたオートレーサーになるという夢を叶えながら、今も好きであり続ける。アイドル時代から、自分がやりたいことを一心に追い続けている。本当にかっこいいなと思います」

 映画の終盤、レースを終えた森が自分の乗るバイクを解体し、延々とメンテナンスする様子をカメラは映し出している。彼ほどメンテナンスに時間を費やすレーサーはいないという。日々のレースに命を張り、ブレることなく生き続ける姿は、ギャンブルやSMAPに興味がなかった人も魅了するに違いない。

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公園に佇む少年のような表情の森且行

ドキュメンタリー映画『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』

監督・編集/穂坂友紀 出演/森且行 ナレーション/萩原聖人
配給/KADOKAWA 11月29日(金)より新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー
©TBS
https://autoracer-mori.com/

最終更新:2024/11/28 12:00
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