【24年秋ドラマ】『わたしの宝物』第6話 “托卵”が美談だなんて、とんでもない! こりゃ地獄絵図ですよ
#わたしの宝物
先週のヒロキ(田中圭)が家族写真を撮ろうとして泣き出しちゃうシーンの切り抜き動画が拡散されたようで、この『わたしの宝物』(フジテレビ系)というドラマは“托卵”を美談にしようとしているなんて誤解が広まっているようですね。
いやーんとんでもない、美談どころか地獄絵図ですがな。登場人物各々、心からビュービューと血が噴き出しております。痛い痛い。第6話、振り返りましょう。
■マスターあんたずるいぜ
妻であるミワさん(松本若菜)が産んだ栞ちゃんが自分の子ではないことを知ったヒロキ。それでもしばらくは普通に過ごしていましたが、6カ月のハーフバースデーの日に家族写真を撮ろうとしたところで、ついに涙腺が崩壊。涙腺以外にもいろいろ崩壊したようで、翌朝ミワさんが目を覚ます前に栞ちゃんを連れて姿を消します。
こういうときはやっぱり海ですね。後部座席のチャイルドシートに栞ちゃんを乗せて海辺に乗り付けたヒロキのエクストレイルのナンバープレートには「11-88」という数字が並んでいます。
「いいパパ」。
このクルマ、栞ちゃんが産まれてから買ったんでしょうね。日産のディーラーでナンバーを希望するかどうか尋ねられて「11-88、いいパパでお願いします」なんて、照れ臭そうに答えているヒロキの顔が目に浮かびます。「最近、子どもが産まれましてね、やっぱりファミリーカーにしなきゃなんて」とか、デレデレで言ってたんだろうな。ミワさんも「やだーヒロキー」なんつってね。
そのエクストレイルの後部座席から栞ちゃんを抱き上げたヒロキ、とりあえずミルクの時間になったので海辺のカフェにお湯をもらいに行きますが、そこにいた老夫婦に「娘は顔が父親に似てくる」とか「もうすぐ嫁に出す」とか言われて、言葉を失ってしまいます。もう、こういうのが全部刺さる。どれくらいの時間、ベンチに座って海を眺めていたのでしょう。ヒロキは栞ちゃんを抱いたまま、海に入っていくのでした。
一方、ヒロキと栞ちゃんがいなくなって茫然自失のミワさんをよそに、JOKERこと親友のマコトちゃん(恒松祐里)はテンション爆上げ。ミワさんに「ヒロキさんと栞さんに何かあったらあなたのせい」、実の父親である冬月(深澤辰哉)にも「あなたのせいで」と絨毯爆撃を仕掛けます。裁く側に回った人間は怖いですね。おまえがチクらなきゃ、全員平和だったんだけどな。
入水を思いとどまったヒロキは、馴染みの喫茶店のマスター(北村一輝)に電話をかけて「バカなことをしようとした」と告白します。こういうときに電話をかける相手がいるということが、どれだけヒロキの救いになったかわかりません。
さらにマスターは、大はしゃぎで駆け回るマコトちゃんにも「夫婦に首突っ込むな」「おまえの正義を押し付けるな」とオトナな進言。要するに「他人事だろ」ってことなんですが、マコトちゃんはヒロキにずっと恋してたし、男だろうが女だろうが不倫するやつは絶対に許せないし、最近じゃシンママとして育ててる息子が父親の話なんかしだすものだから「子どもにとって父親とは」みたいな思考が頭の中を渦巻いてるし、全然他人事ではありません。ミワさんくらいしか友達いなそうだしな。そんなマコトの事情も知らずに正論だけ叩きつけるマスター、あんたずるいぜ。マコトちゃんの話も聞いてやんなきゃフェアじゃないけど、そんなのはマスターも知ったこっちゃない。
知ったこっちゃないのはマコトちゃんも同じで、マスターに言われた正論なんてどこ吹く風、ミワさんが栞ちゃんを預けにきた機を見て冬月を呼び出し、ミワさんと対面させます。栞ちゃんが自分の子だと知らない冬月は「何か力になれることは……?」などとノンキにピュアっぷりを発揮しますが、ミワさんに「夫婦の問題だから」とピシャリと言われてしまい、こちらも意気消沈です。
とりあえず落ち着きを取り戻したヒロキは栞ちゃんのハーフバースデーの飾り付けがそのままになっているリビングで結婚指輪を外し、「そいつと育てればよかったじゃんか」「栞の父親は俺だ、栞と離れるくらいならあの子と一緒に死ぬ」などとひとしきり泣き言を連ねると、ミワさんを家から追い出してしまうのでした。
■そういえばおまえも悪かった
冬月の同僚であり、ずっと冬月のことが好きだったリサ(さとうほなみ)。ようやくその思いを伝えたもののこちらも報われませんが、そういえば事態の発端にこいつも一枚噛んでたんだよな。アフリカで冬月が「日本に大切な人がいる」とか言ってた直後にテロに遭って、現地の人にウソをついて冬月を死んだことにしてた。リサがあのとき「死んだのは冬月じゃなくて下原です」とちゃんと伝えていれば「冬月死亡」のニュースが日本に届くことはなかったし、ミワさんはヒロキと離婚して栞ちゃん(じゃない別の名前の赤ちゃん)と2人で冬月の帰国を待っていればよかったわけだ。
ヒロキとミワ、冬月、マコト、リサ。これだけの地獄絵図を描くのに、たった5人しか使ってないんですよね。実に見事な配置だと思います。それぞれの行動が絶妙なタイミングで行われたことにより、それぞれに致命的なダメージを与えている。
しかも、それぞれの行動原理に嫌悪感や不快感はあっても、矛盾はない。みんなが平等に痛めつけられて、血を流している。それぞれの痛みと、誰かを痛めつけようという邪気が伝わってくる。
早い話が、人間が描けているということです。人間が描けている上で、配置と設定に抜かりがない。
冬月はまだ、栞ちゃんが自分の子であることを知りません。そして冬月の会社の存亡は、ヒロキの会社からの融資が下りるかどうかにかかっている。ここでも、互いに刃物を握り合っているわけです。
『わたしの宝物』というドラマはドロドロのぐちゃぐちゃに見えて、実に理知的に、冷酷なまでに正確に人物が配置されています。ホントはこんなガチモンの配置を作って罠にはめて衝突させて血を流させて、その金で飯を食ってるやつがいちばん怖いんだけど、作った側はマスターに正論を言わせて他人事みたいな顔をしてるんだよな。まったくもってずるいぜ(すごくほめてます)。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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