【対談】ドラマプレミア23『Qrosの女 スクープという名の狂気』原作者・誉田哲也✕元週刊文春記者・赤石晋一郎 週刊誌が暴く“真実”、そして「知りたがる側」と「暴かれる側」の痛み
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現在、テレ東系で放映中のドラマ『Qrosの女 スクープという名の狂気』(原作は『Qrosの女』光文社文庫)。週刊誌のトップ記者が主人公となっており、話題のCM美女「Qrosの女」の正体を探るうちに、芸能界の闇が浮き彫りになる……。メディアネタを扱う本サイトとしても今クールで最も興味深いドラマとなっているが、今回は原作者の作家・誉田哲也氏とドラマの取材協力、監修を務める元週刊文春記者の赤石晋一朗氏(情報屋のタクシードライバーとしても出演!)に作品の見どころ、そして週刊誌を取り巻く現状などについて話を聞いた。
赤石晋一郎氏(以下、赤石) 今回ドラマ化された『Qrosの女』ですが、週刊誌を舞台にしたドラマということで、私も週刊誌の実際をお伝えする「取材協力」という形でかかわったほかに、情報屋のチョイ役で出演までさせていただきました。原作小説は2013年に出版されていますが、まだ「文春砲」も話題になっていなかった時期ですよね。まず、週刊誌を舞台に物語を書こうとしたきっかけなどはあったのでしょうか。
誉田哲也氏(以下、誉田) 実は最初から週刊誌を舞台にしようと考えたわけではなくて、もともとはテレビでCMを見ていて、「この娘、誰だろう?」って思ったのが最初なんです。この時は大手アパレルのCMだったんですが、当時は有名タレントさんではない人も結構起用していて、今だとネットで調べればたいていの人の素性はわかるんだけど、「いくら調べても何者なのかわからなかったら面白いんじゃないか」と思ったところからこの物語が生まれました。
赤石 その謎を追いかける主人公として週刊誌記者に注目されたわけですね。ドラマでは桐谷健太さんが主人公「週刊キンダイ」の記者・栗山を演じています。
誉田 僕は以前、新聞記者を主人公にした小説は書いていたんですが、やっぱり謎の女性の素性を調べる役としては新聞ではなく週刊誌の記者のほうがいいですよね。週刊誌記者を視点人物にするには、新聞記者とは違うロジックが必要になってくると思ったのでその辺はかなり取材しました。
赤石 週刊誌や芸能界を描くためたくさんの現役記者にも取材をしたと聞いています。実は私の後輩でもある「週刊文春」(文藝春秋)の記者も協力したそうですが、現場の声を聞いてみて、週刊誌の仕事に関してどのような感想を持たれましたか。
誉田 たくさんの方にお話を聞いた中でも「週刊現代」(講談社)と『週刊文春』の記者さんの話がすごく参考になりました。仕事ぶりも面白いですし。求められる記事も取材のやり方も新聞とは異なっていて、他媒体と同じことを書いていてはダメだし、毎週のようにネタを出すと聞いて、これはキツいだろうなと。取材手法も新聞記者だったら社の名刺を持って堂々と正面から当たっていくんだろうけど、週刊誌記者の場合は独自のネタを見つけると水面下で時間をかけて調査をしていく。刑事よりも公安みたいなイメージですね。
赤石 「週刊文春」に在籍していたころ、僕は忙しすぎてマヒしていたのかもしれませんが、週刊誌って読むよりも記者をやっている方が楽しいんですよ。いろんな物事の裏も見れるし仲間もできる。ビジネスでいえば状況は厳しいんですけど。
誉田 でも、(仮に所属する雑誌がなくなったとしても)発表する媒体が変わるだけで記者の仕事は簡単にはなくならないと思いますよ。今はあらゆるところに“カメラ”があるけど、記者が足を使って手を使って、張り込みをして直撃をして言質を取ってと、取材を積み重ねて初めて浮かんでくる真実もありますから。
「知りたがる側」と「暴かれる側」
赤石 記者なりの葛藤もリアルでした。僕はもともと「フライデー」(講談社)の政治班から文春に移って、芸能ネタなど何でもやるようになったんですが、ゴシップも許容しなければならないし、仕事でもあるから好き嫌いも言っていられない。ドラマでは後輩記者の影山拓也(IMP.)さん演じる矢口慶太がまさにそんな悩みにぶち当たっていて。
誉田 ただ僕の場合、メディアを舞台にした作品を書くと、最終的に「知りたがりの罪」って話にしがちなんです。事件でも不倫報道でも、記者だけじゃなく読者も視聴者もみんな知りたがっている。僕だって知りたいとは思うけど、「知りたがる側」と「暴かれる側」の痛みは公平ではないじゃないですか。だからこの作品では真実を追求することの残酷さや痛さではなく、逆にそれを武器にした「幸せな嘘の物語」を書きたいなって思ったんです。ちょっとズルいようですが、事実と真実っていうのは違いますからね。
赤石 栗山のセリフで「僕は真実しか書きませんから」ってありましたが、ちょっと待って、「真実って何ですか」という疑問は僕たち記者、書き手にも常にあります。
誉田 物事は見方によって変わりますからね。古い話で恐縮ですが昔のプロレスで力道山とフレッド・ブラッシーの生中継を見てお年寄りがショック死したっていう有名なエピソードがあります。これも亡くなったのは事実でも、過激な技の掛け合いでショック死したのかもしれないし、もしかしたら力道山が逆転勝利したことに興奮して亡くなったのかもしれない。
何が言いたいかというと、殺人事件の裁判でも重視されるのは「殺意の有無」であるように、真実って結局は人の心の中にしかないんじゃないかなと思うんです。じゃあその真実に対して記者はどう向き合うべきかといえば、記者が知り得たものの中で、これこそが真実であると信ずるに足る記事を書くしかない。それが記者の矜持であればいいなというふうに思うんです。
赤石 記者をやっていて、取材で知りえたことを書くのは当然だし、人を傷つけることになるっていうのもすごくわかるんです。でも、やっぱり書くことで誰かを助けることができるなら、という気持ちもすごくある。別に週刊誌記者がやっていることはホワイトだとは思いませんが、世間ではやっぱり飛ばし記事も書くブラックなイメージで言われることが多い。ドラマではその葛藤や違いをリアルに描いてもらえたのは、個人的にもうれしかったです。
誉田 主人公の栗山は過去に誤報を書いたことがトラウマになっていて、その過去とどう向き合うかが物語のベースラインになっています。ジャーナリズムとか正義とはまた違った理由で行動するところも見てほしいですね。
小説の映像化とオリジナル要素
赤石 もう一人、登場人物で印象的だったのがブラックジャーナリストで哀川翔さん演じる園田芳美です。現実にも有名なフリーの芸能ジャーナリストがいるんですけど、原作に出てくる「カニ◯ンのような拳」なんて描写がその人にそっくりで、まさかあの人のことじゃないかと記者仲間でも話題になったんですが。
誉田 いやいや、園田は特にモデルがいたわけではないんです。普段は嘘ばっかりつくのにごく稀に本当のことを言うベリトっていう悪魔がいて、みんなベリトが嘘つきなことは知っているんだけど、今度だけは本当かもと思ってしまう。そんなイメージですね。ドラマでは園田の役を哀川翔さんが演じてらっしゃいますが、原作のイメージよりは大分格好いいかもしれません。
赤石 格好いいと言えば、主人公の週刊誌記者を演じる桐谷健太さんも記者にしてはちょっと格好良すぎかと(笑)。めっちゃデカいし姿勢もいい。張り込みの車は人気のジムニーだし、あれじゃあ目立ってしょうがないでしょうね。もちろんドラマなんですけど。
誉田 原作のイメージとの違いはあっても、それはうれしい違いだったりもします。主役にはやっぱり、華がないといけませんから。哀川さんの起用なんかも、「その手があったか」と感心させられました。
赤石 ドラマは半分を過ぎて、物語はいよいよ佳境に入ってきましたが、原作にはないオリジナル要素も多いですよね。昨今は原作とドラマ化の関係も話題ですけど、今回のドラマ化にはどのくらいかかわられたんですか。
誉田 僕が書く長編小説って余すところなく映像化するなら2時間半くらいがちょうどいいんですよ。『ストロベリーナイト』(フジテレビ系)の姫川玲子シリーズのようにエピソードがたくさんあれば別ですが、この作品を連続ドラマにするとなれば相当膨らませなければなりません。じゃあキャラクターや背景は変えずにどうするかというのは、企画の段階からディスカッションの時間を取っていただき、きちっとコンセンサスを得たうえでスタートできたので、そこはよかったです。脚本段階でも気づいたところを伝えたら丁寧に直していただきましたし。
赤石 キャスティングで言えば桐谷さんや哀川さんの他に櫻坂46の田村保乃さんやIMP.の影山さんなどが出演されていてかなり豪華です。週刊誌記者に注目が集まることを期待しつつ最後まで見たいと思います。
誉田 僕もこの先にどうなるかはまだ見ていないので、放送を楽しみにしてます。
ドラマプレミア23『Qrosの女 スクープという名の狂気』
毎週月曜夜11時6分~11時55分
テレ東系、全国どこからでも「TVer」でリアルタイム配信
原作:誉田哲也「Qrosの女」(光文社文庫)
主演:桐谷健太
出演:影山拓也(IMP.)、黎架、田村保乃(櫻坂 46)、増子敦貴(GENIC)、なえなの、三浦孝太、川島海荷/ 岡部たかし、哀川翔 ほか
脚本:服部隆
監督:守屋健太郎、上田迅、頃安祐良
音楽:遠藤浩二
チーフプロデューサー:森田昇(テレビ東京)
プロデューサー:本間かなみ(テレビ東京)、渡邊竜(松竹)、松田裕佑(松竹)
制作:テレビ東京、松竹
番組URL:https://www.tv-tokyo.co.jp/qros/
©「Qrosの女」製作委員会
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