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【24年秋ドラマ】『海ダイヤ』長崎への原爆投下と戦没者を弔う浴衣姿のヒロインたち

【24年秋ドラマ】『海ダイヤ』長崎への原爆投下と戦没者を弔う浴衣姿のヒロインたちの画像1
神木隆之介(写真/Getty Imagesより)

 TBS版『タイタニック』のエンジンが、ついにフル稼働を始めました。1950年代の石炭採掘業で賑わう「軍艦島」と現代の東京をつなぐ日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)の第4話。百合子(土屋太鳳)が幼なじみの朝子(杉咲花)を嫌味の毒針を刺し続けていた理由が明らかになりました。百合子なりの精一杯の優しさだったのです。

 8月は日本人が否応なく「死」を意識する季節です。亡くなった人たちを偲ぶ「お盆」の季節であり、また8月15日は多くの犠牲者を出した太平洋戦争の終戦記念日になります。長崎の風物詩である「精霊流し」が軍艦島でも行なわれ、百合子や鉄平(神木隆之介)たち家族の過去が明らかになりました。

 島全体が盛り上がる盆踊り大会が近づき、体調が悪かった百合子の母親・寿美子(山本未来)が亡くなります。寿美子はプルトニウム型原子爆弾が投下された長崎で被爆しており、ずっと闘病していた身でした。百合子が嫁入り前であることから、母親がピカドンのせいで亡くなったことは伏せられ、身内だけでひっそりと「中ノ島」で火葬されました。

 第3話で朝子が鉄平に連れられ、生まれて初めての花見を楽しんだ甘いデートスポットが、この日は死の匂いでいっぱいです。朝子の幸せと百合子の不幸が、あまりにも対照的に描かれています。

鉄平たち幼なじみ4人がいつも一緒にいる理由

 1945年8月9日、まだ幼かった朝子は、同じ島で生まれ育った鉄平や百合子たちと一緒に遊んでいました。その日、百合子の母・寿美子は、長崎の浦上天主堂へ百合子とその姉を連れていくつもりでした。百合子は本能的に不吉な予感があったのでしょう。母親に見つからないように隠れていたのですが、無邪気な朝子が「は~い」と飛び出したことで、百合子は見つかってしまいます。

 午前11時すぎ、長崎に着いた百合子はまさに地獄を見たのです。奇跡的に百合子は生き延びたものの、姉は爆死、母も被爆してしまいました。百合子自身もいつ発病するか分からない恐怖を抱えています。百合子の性格が歪み、朝子にチクチクといじわるするのはそんな理由からでした。

 朝子のせいで百合子は長崎に行くはめになったのですが、もし行っていなかったら百合子は自分自身を呪い、耐えられなかったはずです。幼かった朝子はその日のことを覚えていません。純真なままの朝子をいびり続けながら、百合子は自分自身も傷つけていたのです。鉄平、賢将(清水尋也)はそのことに気づいており、百合子がそれ以上は朝子を傷つけないように見守っていたのです。

 長崎で惨劇を体験した百合子は、神の存在を信じなくなりました。島にあるお寺の和尚(さだまさし)に愚痴を漏らすと、和尚は「神も仏も何もしないとよ。何かするのは全部人間の業よ」という言葉を返します。

 百合子は、台風の夜にキリスト像が記されたネックレスを投げ捨てています。しかし、賢将がそのネックレスを偶然見つけ、百合子に手渡します。

 神の存在は信じない百合子ですが、ネックレスは母親の大事な形見です。泣き出す百合子が人目につかないよう、百合子の前にスッと立つ賢将でした。自分から振った元カレの賢将が、このときの百合子には身近な神さまのように感じられたはずです。

浴衣姿のヒロインたちの美しさ

 精霊流しの当日を迎え、百合子は意を決して、朝子を盆踊りに誘います。食堂の手伝いを済ませた朝子に浴衣を着せ、帯を締めながら長年にわたる非礼を詫びる百合子でした。百合子の母親の死を察した朝子は、百合子の謝罪を笑顔で受け入れます。

 元ジャズ歌手という触れ込みの草笛リナ(池田エライザ)が「端島音頭」を歌う盆踊り会場に、階段を降りてきた浴衣姿の百合子と朝子が現れます。この2人のヒロインの並びの美しいこと! 思わず武者小路実篤の「仲よき事は美しき哉」という言葉を思い出しました。

 食堂の看板娘である朝子は、島から出たことがありません。純粋無垢なまま大人になった稀有なキャラクターです。そんな朝子を、鉄平、賢将、百合子は大切にしていることが分かります。朝子をめぐるエピソードは、『海の上のピアニスト』(1998年)オマージュだと前回のコラムで触れましたが、同じイタリア映画の『ライフ・イズ・ビューティフル』(1997年)も彷彿させます。

 鉄平たち家族の過去も明かされました。太平洋戦争中、島の食糧事情がよくなかったため、鉄平のふたりの姉は福岡へ疎開し、福岡市街を焼き尽くした福岡大空襲で亡くなったのでした。長男は20歳で陸軍に出兵志願し、ビルマで玉砕を遂げたそうです。次男の進平(斎藤工)は戦争から無事に戻ったものの、戦場でどんな体験をしたのかは口を閉ざして語りません。末っ子の鉄平がいつも明るく振る舞っているのは、戦争でズタズタになった家族を建て直したいという気持ちからなのでしょう。

 亡くなった人たちを弔うために、夜空を彩る美しい花火が次々と打ち上げられます。

影の努力を惜しまない俳優・神木隆之介

 家族想い、仲間想いの鉄平に比べ、現代パートの玲央(神木隆之介:二役)には家族も心を許せる親友もいません。タイプの異なる二役をきっちり演じ分ける神木くんの演技力はさすがです。ただ芝居がうまいだけでなく、リナたちが朝子を盆踊りに誘うシーンでは、横から鉄平が援護射撃しながら、扇風機に向かって「あ”~」と声出すお茶目な表情を見せています。こういう何でもない演技をごく自然にできてしまうところが、神木くんの魅力ではないでしょうか。

 吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』(2012年)に主演した神木くんをインタビューしたことがありますが、素顔の彼も鉄平同様のナイスガイでした。高校を卒業して間もなかった頃でしたが、仕事が忙しくて学校になかなか登校できなくても、運動会などの学校の行事やクラスの催し物には積極的に参加したそうです。

 クラスでボウリング大会やカラオケ大会があると、事前に「ひとりボウリング」や「ひとりカラオケ」の時間をつくり、クラスのみんなが盛り上がれるよう秘密特訓に励んだそうです。そんな影の努力を惜しまないのが、俳優・神木隆之介です。きっと、軍艦島のロケセットの現場も、神木くんを中心にして雰囲気がいいんじゃないかと思います。

 今夜放送の第5話「一島一家」では、炭鉱員たちが賃金アップを求めてストライキを計画。炭鉱会社の職員である鉄平は、採掘現場で働く父・一平(國村隼)や兄・進平と対立することになりそうです。島全体がストライキ問題で揺れる中、進平といいムードになってきたリナの秘密が明かされることになります。過去のある女・リナの拳銃が火を噴く、ノワールアクション調のエピソードになりそうです。

 玲央を会社の後継者に指名した老女・いづみ(宮本信子)の正体も気になるところです。玲央が島の過去について知った鉄平の日記を、どういう経緯でいづみは手に入れたのか。いづみ=朝子なのか、それとも百合子か、リナなのか。この謎解きはしばらく続きそうです。

最終更新:2024/11/24 09:00
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