【24年秋ドラマ】『若草物語』第6話 「ド天才が出てこない『ルックバック』」は誰に刺さるのか
#若草物語
恋愛のことを考え始めると、途端に貧乏ゆすりが出てしまう脚本家志望の女性・リョウ(堀田真由)が、こともあろうか恋愛ドラマの大家である大御所脚本家・大平かなえ(筒井真理子)に弟子入りしてしまうところから始まったギョーカイ大冒険ドラマ『若草物語 ─恋する姉妹と恋せぬ私─』(日本テレビ系)も第6話。今回は、そんなリョウがついに脚本家デビューするお話でした。
タイトルが『若草物語』ですから4姉妹が出てきますし、リョウ以外の姉妹にもいろいろあるわけですが、個人的にはリョウが書いた脚本の文字数とおもしろさが比例している感じです。今回はたくさん書いたのでおもしろかった。
振り返りましょう。
■脚本には演者の人生が乗るという話
大平かなえが脚本を担当する『恋愛遊覧船』も、いよいよクランクイン。主演の女優さんは堂々としたものですが、共演のアイドルちゃんはちょっと緊張気味のご様子です。
そんな折、プロットライターとして参加しているリョウに、スピンオフドラマの脚本の仕事が舞い込みます。ネット配信のみで、主演女優はスケジュールがないので共演のアイドルちゃんがメインとなり、ロケNG、既存のセットでの撮影という縛りがありますが、リョウにとっては念願の脚本家デビューとなりますので、気合は入っています。
企画に悩むリョウですが、妹のメイ(畑芽育)の「ネットではこういうのがバズる」という助言もあって、ドロドロのドロ沼不倫劇をやってみることに。この『裏・遊覧船』企画にはプロデューサーも、アイドルちゃんを本格女優に育てたい所属事務所も乗り気ですし、一旦これでGOとなりました。
とりあえず「書ける」ということでひと安心しているリョウの前に現れたのは、かつて創作論をめぐって舌戦を繰り広げ、大見得を切ったことのある大御所脚本家・黒崎(生瀬勝久)でした。黒崎は「ドロ沼不倫劇」の企画書を覗き込むと、「あれだけのことを言っておいて、不倫劇ですかぁ?」的な嫌味をぶつけてきます。多少はチクチクと痛むところもあるリョウですが、今はとにかく脚本家デビューが最優先。なんとか黒崎を振り払って脚本作りに入ろうとしますが、当のアイドルちゃんにキラキラとした目で女優としての夢を語られちゃって、もう筆がストップしてしまいます。
リョウにとっては、どんな形であれ脚本家としてのデビューを果たしておきたいタイミング。しかしそれは、アイドルちゃんにとっても女優としての大切な第一歩でした。不倫劇は企画としてもキャッチーだし、たぶんちゃんとバズるだろうし、プロデューサーの評価も得ることができるでしょう。でも、そんなのは書き手側の都合でしかありません。このアイドルちゃんのキャリアには、全然似合わない。それでも新人女優であるアイドルちゃんは、盲目的に与えられた脚本を演じるしかない。さらに、リョウはこのアイドルちゃんに、消息不明となっている女優志望だった妹・エリ(長濱ねる)の面影も重ねてしまいます。例えばエリの女優デビュー作がドロドロの『裏・遊覧船』だったら……実際に画面に出るのは演者だし、デビュー作はその演者を強く印象付けることになる。その脚本に、人生が乗るわけです。モヤモヤが頂点に達したリョウは、パソコンの前で貧乏ゆすりをするしかありません。
リョウは改めて、自分の本懐である「恋愛じゃない会話劇」として『友情遊覧船』企画を提案します。何も起こらない、ただ何気ない女性2人の会話だけがある企画。当然、主演女優のスケジュールは取れないし企画のインパクトもないしでプロデューサーからは一蹴されますが、アイドルちゃんの古参ヲタだった女性APさん(工藤遥)だけは「この企画こそがアイドルちゃんに相応しい」と熱烈支持。「縦形」「主観映像」にすることでスケジュール問題も解決し、リョウの企画を成立させてみせるのでした。
その会話劇は、実際にリョウとエリがかつて交わしたことのある会話をトレースしたものでした。スピンオフは無事に放送され、そのことをエリにLINEするリョウ。消息を絶ってからずっと既読が付かなかったエリのLINEに、2年ぶりの既読が表示されるのでした。
■訴求対象とエゴと
地上波は全然無理だけど、配信のスピンオフなら書いていいよ、という状況は、駆け出しの脚本家にとってなかなかリアルな設定だったと思います。自由度がある分、リョウの中にはさまざまなエゴが渦巻くことになる。
実際、脚本家の仕事を始める前には「自分の理想のドラマを書きたい」という思いしかなかったリョウですが、大平かなえの弟子として現場に入ることによって「売れたい」「バズりたい」「上に認めさせたい」という、本来なら邪念ともいうべき願望が浮かんできている。いや、浮かんできているというより、そうした願望がリアリティをもって手の届く位置に来ているといったほうがいいでしょう。
自分の中にあるどのエゴを貫くか。仕事として創作を行っている創作者にとっては永遠のテーマだし、だからこそ根っこの部分だったリョウの「自分らしいドラマ」がAPさんにブッ刺さるシーンは感動的でした。
ひるがえって、じゃあこの『若草物語』というドラマはどこに刺さるんだろうという話になると、これ難しいよな、と感じる回でもあったんですよね。姉のメグ(仁村紗和)も妹のメイもあんまり素敵な恋愛はしてないし、創作に興味のない大部分の視聴者にとってリョウという女性は偏屈で跳ねっ返りで意固地なだけにしか映らないだろうし、実際SNSではメイちゃんを演じる畑芽育とそのお相手を演じる深田竜生の顔ファンくらいしかこのドラマに言及してないんだよな。
個人的には「ド天才が出てこない『ルックバック』」みたいな感じのものとして楽しんでいますし、今回のくどぅーのドルヲタ芝居も超楽しかったし、このままエゴを貫いてほしいと思います。確かに、刺さってるのでね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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