【24年秋ドラマ】『潜入兄妹』第7話 徹底したフォーマット主義と世界観で矛盾を圧し潰す演出術
#潜入兄妹
香港ノワール風ハードボイルドサスペンスドラマ『潜入兄妹』(日本テレビ系)も第7話。毎回、物語が途中で終わってしまうような「最悪だ……」なバッドエンドのシチュエーションを用意しておいて、そのピンチをなんとかかんとか脱するというフォーマットに徹しつつ、仁義や絆、暴力と旨そうな飯なんかのデコレーションで彩られた世界観がなんともステキです。
今回は、「ハコの中にいる内通者をあぶり出せ」というお話。内通者が誰だかわかりませんが、きっと事情があるんでしょう。振り返ります。
■今週もとりあえず「最悪」を脱出
キイチ(竜星涼)とユキ(八木莉可子)の潜入兄妹を潜入させた当の本人である入間刑事(及川光博)が巨大詐欺組織「幻獣」に捉えられ、キイチは入間刑事を「殺せ」と命じられてしまいます。
目の前には後ろ手に縛られた入間刑事、手には組織の始末屋・櫛田(フェルナンデス直行)から渡されたナイフ。もちろんキイチは入間刑事を殺さなければ自分が殺されてしまいますが、そんなことはできるわけありません。ユキも見てるし。はい、最悪です。
ここで機転を利かせたキイチ、ナイフを捨てて「殴り殺す」と宣言。無防備な入間刑事をタコ殴りにします。殴られてすっ飛んだ入間のメガネを踏み潰すなど、まあまあやりすぎてる。そしてある程度殴ったところでそこらへんにGPS発信器を床に転がし、居場所が割れてるので警察が来るということで、一同は入間を残して撤収することに。
実は入間が拉致される寸前にキイチに電話をかけ、スピーカーにして拉致されることを教えていたんですね。そこでユキが自前でGPS発信器を用意していくことを提案し、あらかじめ警察を現場に呼んでいた。
このドラマにおける、いつもの脱ピンチパターンです。どうしようもなく、逃げ場のない最悪の事態だと思わせておいて、普通に考えてあり得ない脱出方法でなんとか脱出する。直後に「実はこんな準備をしていたんですよ」という情報を後出しして、説得力を付加する。これだと、トラブルの時点では本当に脱出方法がないように思えますので、ワクワクしちゃうわけです。細かく見れば偶然のタイミングに頼っていたりとか、ツッコミどころもあるんですが、そのへんはシーンの強さと展開のスピードで潰していく。キイチが殴り始めた瞬間、ああこれは本当にボコにされるんだと悟りつつ殴られ続けた入間刑事、カッコよかったですね。ミッチーを「人間とダイヤモンドのハーフ」だと言ったのは芸人のカズレーザーだったでしょうか。そのミッチーがボコボコにされているわけですから、こういうのをハードボイルドというんだよね。
肝心の「ハコの中にいる内通者をあぶり出せ」作戦も、なかなか秀逸でした。ハコ長の美波さん(入山杏奈)を内通者に仕立ててほかのハコメンバーを動かし、その証拠集めの作業の中で本当の内通者をあぶり出す。めちゃんこ美人の入山杏奈がギャンブル依存症という設定もふるっていますし、実際の内通者だったなお美さん(呉城久美)には、やっぱりハコを裏切らざるを得ない悲しい事情があった。
そして当然なお美さんは殺されることになるわけですが、兄妹の妹・ユキがネイルガンを構える櫛田の前に立ちはだかり、「なお美を泳がせたほうが組織のためになる」と幹部連中を説得して、またピンチから脱出する。「私は足手まといだわ」などと落ち込んで、キイチにデコピンされていたユキがハコメンバーとして独り立ちしたシーンでした。いちいち熱いです。
今週は珍しく「最悪だ……」なラストではありませんでしたが、次回は大病院が舞台のようです。ドラマ『大病院占拠』(同)と同じスタッフが作っているので、何かまた楽しい仕掛けがあるんでしょう。
■始末屋・櫛田に裏がある?
このレビューでは初回からフェルナンデス直行さん演じる始末屋・櫛田に偏愛を寄せてきたわけですが、その櫛田に今回、怪しい動き(というか怪しい演出)が見られました。
だいたいヤバいことが発生する場所には櫛田がいるし、始末だけではなくPCを駆使していろんなことを調査する調査員としても有能な櫛田ですが、どうやら幻獣に対して隠し事があるようです。
何話か前に、入間刑事とばったり会って撃ち殺そうとしたことがあった櫛田ですが、そのとき入間がユキのことを「ユキ」と呼んでいるところを見ていたんですね。今回、そのシーンが改めて挿入されていました。
今回、入間刑事を拉致したのも櫛田ですし、「入間が知り合いじゃないなら殺せ」と言われたキイチが入間をボコっている現場にも立ち会っている。つまり、櫛田は兄妹が入間と知り合いであることを知っているはずなのに、黙ってるわけです。
ただの始末屋でもあんなに魅力的だった櫛田に裏設定があるとなると、ちょっとさらにワクワクしちゃいますな。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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