『おむすび』第34回 「好きだよ、バーカ!」王道ラブコメのフリにされた震災被害者たち
#おむすび
「好きだよ、バーカ!」だってさ。
というわけで、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』、今朝はいよいよ米田結(橋本環奈)が栄養士を目指す決意を固める、極めて重要な回となりました。
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で被災した米田結。当時は6歳でしたが、避難所でもらった冷たいおむすびのことは覚えていたようです。その後、福岡・糸島に移るも震災のトラウマから長く心を閉ざしてきましたが、ギャルとの出会いや元カリスマギャルの姉・アユ(仲里依紗)との和解もあって、笑顔を取り戻すことができました。
そんな米田結の日課は、実家の農業を手伝うことでした。出荷時、不揃いの野菜はパックから弾かれることになりますが、そんな不格好な野菜でもめちゃくちゃ美味しいし、栄養も抜群だし、等しく価値があるものだと教えてくれたのはおじいちゃん(松平健)でした。
米田結は、美味しいものが人を元気づけることを知っています。大切な帽子を海に落として泣いていた小学生も、お菓子ばかり食べていて栄養失調になったギャル友のスズリンも、米田結が差し出したトマトやおむすびを食べて、元気を取り戻していました。そして米田結自身も、落ち込んでいたときにおばあちゃん(宮崎美子)が作ってくれた温かいスープで元気を取り戻したことがありました。
美味しいものを食べると、元気になる。そうやって、米田結は食の大切さや、食が生活を豊かにすることを知っていったのでした。
という物語とはまったく関係なく、米田結が栄養士を目指したのは単にイケメンきっかけだったと、何のてらいもなく結論付けられた第34回、振り返りましょう。
■書道もギャルもやってた
昨日すっ飛ばした2年間の間に、結ちゃんは書道もちゃんとやってたようです。彼女がいることが発覚して以来すっかりドラマから追い出されていた風見先輩(松本怜生)の目の前で、結ちゃんは大判の白布に何やら筆を走らせています。
「心がこもった、ステキな字や」
風見先輩もご満悦ですが、ここでドラマはその書を見せないで引っ張るという、いつもの後回し演出。だるっ。
結ちゃんの書は、「翔」の1文字。イケメン野球カッパこと四ツ木翔也(佐野勇斗)を応援するための幕だったんですね。カッパはみんなの期待通り、県大会の決勝に進出。これに勝って甲子園進出を決め、結ちゃんに「米田結が好きだと告白する」と宣言済みですし、プロのスカウトも来ているようなので気合十分です。
スタンドでは、20人くらいに膨れ上がったハギャレンがブラバンの演奏に合わせてパラパラで応援しています。ルーリー(みりちゃむ)たちOGも駆け付けてくれてるし、結ちゃんが部活中に書いた「翔」の幕も張り出されていて、大盛り上がり。その期待に応えてカッパがタイムリーか何かを打ったようで(これも見せない)、カッパの所属する福岡西高は1回表に1点を先制しました。ちなみに結ちゃんは糸島東高ですので、他校の応援席で好き勝手やってるわけですが、まあこのへんはご愛嬌です。
スミイチのまま9回裏、2死2塁。あとひとりで甲子園という状況ですが、ここでマウンド上のカッパは腕をプラプラと振る動作を見せます。すると福西の監督が「まずい!」と叫びます。その言葉通り、カッパの投じたボールは軽々と弾き返され、逆転サヨナラホームランに。カッパの甲子園への夢は潰えたのでした。
翌日、結ちゃんを呼び出したカッパは、すっかり元気になっていました。高校を出たら大阪の社会人チームに進み、3年後のドラフトを待つのだそうです。そして、プロになったら「米田結が好きだと告白する」と言います。
「だけん、もう、それ、告白しとるんだっつーの」
「ハッ! そうか。じゃあ米田結の答えは?」
「好きだよ、バーカ!」
ほんで家帰って、カッパに栄養のこととかいろいろメールしてた2年間を思い出しながら、栄養士になることを決めたのでした。
あと、パパ(北村有起哉)に神戸の友達から電話がかかってきて、空き店舗が出たから神戸帰ってきて床屋やれという誘いがあり、パパは神戸に行ってます。今日はそんな感じ。
■震災のおむすびはあんま関係ない
『おむすび』の放送前には、盛んに神戸の震災のときに避難所におむすびが届けられたエピソードが宣伝に使われていましたが、それは主人公が栄養士になるきっかけとはまったく関係がありませんでした。
震災はカッパとの仲を深めるきっかけにはなりましたが、ここでもおむすびは関係ない。結ちゃんとカッパの2年間でも、おむすびは1回も出てきてない。
端的に言って、踏みにじったな、と思いました。神戸の人たちにとって極めて大切であろうおむすびのエピソードが、「好きだよ、バーカ!」みたいなことをやるためのダシに使われてる。別に「好きだよ、バーカ!」をやること自体が悪いとは思わないけど、不幸や災害を「好きだよ、バーカ!」をやるためのフリに使うのは、さすがにどうかと思うんだよな。
これまでもルーリーのネグレクトやスズリンの栄養失調など、誰かの不幸や苦労話をフリにしないと展開を作れなかった『おむすび』でしたが、いよいよ実際にモデルのある苦労までそういう使い方をしたわけで、当時の神戸を知る人たち、「震災のときのおむすびのエピソードを起点に、食の大切さを描くドラマを作りたいんですよ」というコンセプトを聞かされて取材に応じた被災者たちに、どう申し開きをするつもりなんでしょう。
能天気なカッパよろしく「そんなもん、書き換えればいいべ!」って言うのかな。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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