【24年秋ドラマ】『海ダイヤ』朝子の恋心に気づいた鉄平、そしてボディブローを放ち続ける土屋太鳳の小技
#海に眠るダイヤモンド
朝子が好きなのは花ではなく、花を生かす器だった
結局、映画オーディションは真っ赤な嘘で、映画プロデューサーの夏八木は軍艦島に闖入してきた窃盗団の仲間だったことが分かります。1950年代後半はテレビが一般家庭にも普及し、映画産業が傾き始めた時代でもありました。映画オマージュに溢れた『海ダイヤ』は、そんな映画史の裏側も描いています。
せっかく張り切ってオーディションを受けたのに、詐欺事件だと知った朝子は落ち込みます。弟にテレビを買ってあげることもできません。そんな朝子を、鉄平は優しくフォローします。
朝子が「一度も花見をしたことがない」と話していたことを覚えていた鉄平は、朝子を小舟に乗せて近くにある「中ノ島」へ向かいます。普段は火葬場として使っている無人島ですが、鉄平が植栽した桜の木が一本だけあり、タイミングよく満開でした。人混みだらけの軍艦島を離れ、2人っきりでの花見です。このときの朝子の九州弁交じりの言葉は、泣かせるものがありました。
「私は映画スターになりたかったわけじゃなかと。ちょっとだけ、食堂の朝子じゃない人になりたかっただけ」
朝子のそんな夢を叶えてくれた鉄平が、たまらなく愛おしく思えます。しかも、朝子が花瓶がわりに使っている古いガラス瓶は、幼い頃に人気時代劇『鞍馬天狗』の格好をした鉄平が届けてくれたものであることも明かされました。朝子は花が好きなのではなく、花を挿すためのガラス瓶が大切だったのです。美しく咲く花よりも、花を生かす器に魅了されているところも、「下町の太陽」である朝子らしさを感じさせます。
幸せはあまり身近すぎると、気づきにくいものです。中ノ島に来た鉄平と朝子は、夕暮れ時の軍艦島を少し離れた距離感で眺めることになります。プライベートがまったくない、ゴミゴミした軍艦島がまるで満船飾仕様の日の豪華客船のようにキラキラと輝いて映ります。それこそ、海上に浮かぶ宝石箱のようです。『海ダイヤ』序盤屈指の名シーンでしょう。
朝子にとって、鉄平は幼い頃からの憧れのヒーローであることが明かされました。しかし、憧れのヒーローが、そのまま交際相手になるとは限らないのが現実世界のシビアさです。朝子の想いに気づいた鉄平ですが、おそらくこのまますんなりと2人が結ばれることはないでしょう。朝子に片想い中の賢将(清水尋也)、朝子が幸せになることが妬ましい百合子らが、2人の関係に介入してくることになると思われます。
「精霊流し」と共に明かされる家族の歴史
純度100%の「いい人」鉄平に対し、神木隆之介が二役を演じている現代パートの玲央は真逆のやさぐれたキャラクターです。売れないホストの玲央は、部屋代を払う余裕もなく、謎の老女・いづみ(宮本信子)の豪邸に居候するようになりました。
いづみの家族は経済的には非常に恵まれていますが、孫娘の千景(片岡凜)は悪質なホストにハマり、400万円の借金を抱えるなど、家庭内はいろいろと問題があるようです。
軍艦島では朝子の食堂で、鉄平たちはチャンポンをいつも美味しそうに食べていますが、いづみ家の人たちはいつもつまらなそうに食事をしています。菓子研究家の福田里香氏が提唱する「フード理論」によれば、食べ物を不味そうに食べるキャラクターたちは残念な結果が待っていることになるはずです。
今夜放送の第4話では、長崎の夏の風物詩である「精霊流し」が行われます。亡くなった人を供養するための儀式で、長崎では花火なども使い、派手に弔うことが知られています。
ちなみに、軍艦島にあるお寺の和尚を演じるさだまさしは、長崎出身のシンガーソングライターです。フォークデュオ「グレープ」時代に、亡くなった従兄弟をモデルにした「精霊流し」をヒットさせています。従兄弟の恋人の目線から歌った曲です。未聴の方はぜひ一度聴いてみてください。
軍艦島で採取された良質な石炭が、戦前から高度経済成長期までの日本を支えたわけですが、第4話では軍艦島で亡くなった人たちが回顧されることになりそうです。鉄平とその兄・進平(斎藤工)には、他にも早逝した兄や姉がいたようです。鉄平たち一家が、どんな歴史を歩んできたのか注目したいと思います。
野木亜紀子脚本による『海ダイヤ』はフィクションの物語ですが、今の私たちの生活の基盤を築いてくれた先達たちを鎮魂する硬派な社会派ドラマでもあるようです。
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