【24年秋ドラマ】『全領域異常解決室』第5話 アンチオカルトなリアル刑事ドラマからファンタジーへの領域展開
#全領域異常解決室
うへぇ、一気に持ってったな、という感じですな。
ドラマ『全領域異常解決室』(フジテレビ系)も第5話。この作品は、ものすごく頭がよくて知識も豊富な興玉さん(藤原竜也)という人間が、「ヒルコ」を名乗るサイコな犯罪者が裏で糸を引くさまざまな事件を科学的に暴いていくという建て付けでスタートしました。
謎のUMA「シャドーマン」や妖怪「縊鬼」といった人知を超えた存在による仕業だと見せかけられたオカルトじみた事件が、実は人間が頭で考えて作ったトリックだった。そういう解決に爽快感を求めるミステリーだと、視聴者に誤認させてきたわけです。
第1話と第2話は、やっぱりオカルトなんて存在しないというニュアンスで作られています。第3話では「タイムホール」が実は存在するかも? 存在してもいいんじゃない? という、少しだけロマンを感じさせつつも、やはり結局、だいたいの不思議な事件は科学で解決できちゃうということを言っている。
前回の第4話では、単なるデリバリー役だと思われていた解決室のメンバーが実は人知を超えた特殊能力を持っていることが明確に語られ、このあたりでリアリティーラインの引き直しが図られています。オカルトが「あるかもしれないけど、基本的にはない」という世界観から、「ある」に明確に切り替わっている。
そして今回の第5話のラストでは、主人公の興玉さんが言うわけです。
「僕も、神です」
神だったみたい。振り返りましょう。
■フリがフリのまま昇華していく
今回、ヒルコが起こしたのは都内の4カ所に爆弾が仕掛けられたという連続爆破事件。ヒルコは例によってテレビ局に犯行声明文を送っていますが、爆弾を仕掛けた場所は明かしていません。
しかし、ヒルコの犯行声明が出た後、必ず警察に電話をかけてその場所を知らせてくる人間がいる。それによって爆破は未然に防がれているという状態です。
5回目の犯行声明は府中のスタジアム。興玉さんたちが現場に駆け付けると、近所で薬剤師をしている女性・ミチ(星野真里)が居合わせた女の子を救助していました。なぜかミチは爆弾の場所を知っていたし、防犯カメラの映像を確認すると、警察に電話でその位置を知らせていたのもミチだった。
「私には千里眼の能力がある」
興玉さんたちに問い詰められたミチはそう答えます。これが、今回のフリになるわけです。見ているほうは、ミチが言ってる「千里眼の能力」がどんな形で、どう科学的な裏付けをされて解決されるのか。そういう期待を抱くことになる。
それにしても、全然わからないんですよね。これから謎解きが始まるという段階で、あまりにもわからない。とりあえず興玉さんの洞察力や推理力、豊富な知識によって解決されるであろうという予感だけがある。ここで、「全然わからない謎vs優秀な探偵である興玉さん」という構図が出来上がる。この謎のわからなさ具合は過去最強ですので、華麗な解決にがぜん期待してしまうわけです。
ところが、今回はこのミステリーのフリがフリのまま形を変えていくことになります。
ミチの娘である小学生・ミコト(諸林めい)が本当に千里眼の能力を持っていて、爆弾の場所を見抜いてしまう。諸林めいという子役の芝居もすごくて、最初は無垢かつ無知で、事件解決においては足手まといになりそうな雰囲気で登場しているのに、どうやら千里眼が本当にあるらしいとほのめかされるあたりから、芝居が変わっていくんです。能力を発揮しながら「このままだと、大勢死んじゃう」とつぶやくあたりなど、アニメ映画『AKIRA』(88)のシワシワ子ども・キヨコによる名セリフ「人がいっぱい死ぬわ」を想起させます。
そして、興玉さんの「イチキシマヒメノミコトを、保護しました」というセリフで、確定させるわけです。『全領域異常解決室』には、そういうものがリアルに登場する。この少女は千里眼の能力を持つホンモノの能力者で、人間ではなく「イチキシマヒメノミコト」である。興玉さんもそれを知っているということは、同類である。一気に、アンチオカルトなリアル志向の刑事ドラマから日本古来の神話をモチーフとしたファンタジーへと転換するのです。
そこからはもう、流れるような展開です。デリバリー男と、ここまでヒルコであるとミスリードされてきた巫女ギャル(福本莉子)も興玉さんたちの仲間で、みんな神である。神は古来より、人間に紛れて生活している。そうして謎事件を「丸く収める」ことを仕事にしてきたが、興玉さんたちにとっても“謎の神”であるヒルコが現れたことで、「神vs神」の戦争が起こっている。そういう設定が一気に明かされます。
「全然わからない謎vs優秀な探偵である興玉さん」という構図が「神vs神の空中戦」にすり替わるダイナミズム。実に気持ちよく騙されました。
■スケールがでかくなる
このドラマが第4話までに作ってきたミステリー劇は、それ単体としてもよくできたものでした。トリックにも説得力があったし、犯人たちの心情も理解しやすく、かつ感動的に仕上げてきていた。
今回、こういうどんでん返しが用意されていたことを考えると、ここまで科学的に解決されてきた謎解きは全部、本筋とは関係がなかったということになる。本筋とは関係のないものが個別に、精密に作り込まれていたことによって、本筋だと思わされてきた。
クオリティとして、単話で成立するくらい作り込まれてきたものが全部今回に向けてのフリだったことが明かされて、作品のスケールがでかくなってるんですね。このドラマに費やされている「脳みその質量」みたいなものの、それが全部だと思っていたら一部だったということが見えてきた。全領域異常解決室が、さらに領域展開してきたわけです。
安パイを捨てて危うい領域に足を踏み込んできたと感じるし、おもしろく終わってほしいと願わずにはいられません。がんばれ、作ってる人の脳みそ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事