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【24年秋ドラマ】『海に眠るダイヤ』金髪ホスト神木隆之介は「現状維持バイアス」を抜け出せるか

【24年秋ドラマ】『海に眠るダイヤ』金髪ホスト神木隆之介は「現状維持バイアス」を抜け出せるかの画像1
神木隆之介(写真/Getty Imagesより)

 選挙特番でのお休み、プロ野球日本シリーズの優勝決定戦の中継による繰り下げ放映など、さまざまな荒波にもまれながら、TBS版『タイタニック』は航海を続けています。日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(夜9時~、TBS系)は第3話を迎え、ようやく通常放映となります。神木隆之介演じる2人の主人公、真っ直ぐな性格の鉄平、やさぐれホストの玲央に、今週はどんなドラマが待っているのでしょうか。

 1950年代、良質の石炭が採掘される端島、通称「軍艦島」に帰ってきた鉄平(神木隆之介)は炭鉱会社の「勤労課」職員として働き始めました。人口が密集した島の中で起きるさまざまなトラブルを解決するのが、鉄平の役割です。

 食堂の看板娘・朝子(杉咲花)は鉄平のことがずっと好きなのに、鉄平はまるで気づいていません。一方、炭鉱会社の幹部職員の息子である賢将(清水尋也)は、表向きは職員の娘・百合子(土屋太鳳)と付き合っていますが、本当は朝子のことが好きなようです。賢将は朝子のことが好きすぎて、本心を伝えることができずにいます。

 鉄平が夢中になっているのは、島に来て間もない元ジャズ歌手のリナ(池田エライザ)。しかし、リナは鉄平の兄で、2年前に妻を亡くしている進平(斎藤工)が気になるようです。

 誰ひとり、両想いのカップルはいません。一方通行の回転木馬のような状況です。それぞれの想いが交錯する様子が、米国発祥のダンス「スクエアダンス」を通して描かれます。

宮本信子は、50年後の土屋太鳳?

 この恋愛スクエアダンスの輪から、ひとり外れているのが土屋太鳳演じる百合子です。百合子は、キリスト教信者の母親(山本未来)と不仲です。百合子は神の存在を信じていません。どうやら、戦時中に長崎市内で大変な目に遭ったようです。

 百合子自身、「私って性格が悪いのよ」と島の部外者であるリナに打ち明けています。百合子の性格が悪くなった背景、神を信じなくなった原因が今後明かされていくことになるはずです。

 現在、好評公開中のファンタジー時代劇『八犬伝』では、悪霊・玉梓と戦う正義のプリンセス・伏姫を演じるなど、優等生役を演じることの多い土屋太鳳は、今回のドラマでは物語を大きく動かすジョーカー的な役割を果たすようです。キャストのこうした新しい冒険は大歓迎です。

 はたして、謎の老女・いづみ(宮本信子)は、50年後の百合子なのでしょうか? 百合子が女優を目指し、芸名を使うようになったのなら、「いづみ」と名乗っていることも腑に落ちます。次々と踊る相手を変えるスクエアダンスのように、百合子も交際相手を変えていくことになるのでしょうか。人気脚本家・野木亜紀子の筆さばきに注目です。

山崎貴監督の『永遠の0』を思わせる物語構造

 軍艦島が戦前から高度経済成長期までの日本を根底から支えた「不沈艦」なら、歌舞伎町は現代の「不夜城」です。歌舞伎町で働く金髪ホストの玲央(神木隆之介:2役)は相変わらず冴えない毎日を過ごしています。1950年代の軍艦島で鉄平たちが生き生きと働いているのに対し、お店のノルマに追われる玲央は死んだ魚のような目をしています。

 軍艦島は狭い上に、台風が近づければ定期船は欠航し、飲料水や食料が不足してしまうという非常に不自由な環境です。それに比べれば現代に生きる玲央は手に余るほどの自由があるはずなのに、「全然好きじゃない」ホストの仕事を嫌々続けています。お金を介さなくては、女性と付き合うこともできません。

 どうやら玲央は「現状維持バイアス」に囚われてしまっているようです。あまりにも貧しい生活を続けていると、今のままでは将来がないことを分かっていながらも、その状況を変えることができなくなってしまいます。今よりもさらに悲惨な状況にはなりたくないという、ネガティブ思考に陥ってしまうからです。はたから見ると最低最悪の状況なのに、本人は現状維持を望むようになってしまいます。玲央も、自分から不幸な檻の中へ入ってしまい、その檻から出ることができなくなってしまっています。

 いづみの記憶の中の鉄平が鮮明に蘇ることによって、玲央がこの現状維持バイアスの檻から脱出できるかどうかが、現代パートのテーマとなっていきそうです。

 神木隆之介は大ヒット特撮映画『ゴジラ-1.0』(2023年)では、戦後復興に尽力する主人公・敷島を見事に演じました。『海に眠るダイヤ』の音楽を担当する作曲家・佐藤直紀は、『ゴジラ-1.0』に加え、同じ山崎貴監督の『永遠の0』(2013年)のテーマ曲も手がけています。『ゴジラ-1.0』で復員兵・敷島の前にゴジラが現れ、『永遠の0』で現代の若者・三浦春馬の前に戦時中の零戦が蘇ったように、追い詰められた玲央の前にも往年の「軍艦島」が威容を見せることになるかもしれません。

どこまで歴史の闇に野木脚本は斬り込めるか

 第2話では大型台風が軍艦島を襲い、島全体がパニック状態に陥りました。鉄平たちを飲み込もうとする海水の量もハンパなかったです。テレビの連続ドラマで迫力あるパニックシーンは期待していなかったところを、キャストもスタッフも旬な逸材をそろえた『海ダイ』は手抜きせずに、最高のエンタメ作品として視聴者に届けようとする意気込みが台風襲撃シーンからも伝わってきました。

 島にある唯一の映画館が緊急の避難所となり、百合子と一緒に働くモギリ嬢に片桐はいりを起用しているあたりも、日本映画学校(現・日本映画大学)を卒業した野木亜紀子の映画愛を感じさせました。

 2週間ぶりの放送となり、世帯視聴率が11.0%から9.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)とダウンしたのが残念です。

 今後、戦時中パートへと時代を遡るのなら、百合子が関係してくるだろう長崎市への原爆投下、端島での朝鮮人強制労働といった大きな問題が待ち受けているはずです。民放のテレビドラマで、どこまで歴史の闇部分に斬り込むことができるのか? 今もっとも勢いに乗る野木亜紀子脚本に期待したいと思います。

最終更新:2024/11/10 09:00
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