『トップガン』で人生変わったトム・クルーズ ハリウッドスターが手に入れた恍惚と恐怖
#金ロー #トップガン
ハリウッドの映画人なら、誰もが求めるもの。それは「成功」という名の、最も甘い果実です。ごく一部の人しか口にできないものですが、長年にわたって摂取し続けているのがトム・クルーズです。62歳になる今もトム・クルーズが若々しいのは、普段の節制に加え、成功という果実を食べ続けているからではないでしょうか。
11月8日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、トム・クルーズ伝説の始まりとなった主演映画『トップガン』(1986年)を、そして11月15日(金)はメガヒット作となった『トップガン マーヴェリック』(2022年)を2週にわたってオンエアします。
トム・クルーズはいかにしてハリウッドを代表するトップスターになったのか。『トップガン』の成功がトム・クルーズにもたらしたものを振り返りたいと思います。
外国人モデルのような二枚目感からの脱皮
今となっては、『トップガン』の主人公マーヴェリックはトム・クルーズ以外は考えられないわけですが、企画されていた段階ではトム・クルーズは第1候補ではありませんでした。『タップス』(1981年)や『卒業白書』(1983年)などで注目を集めましたが、当時のハリウッド若手俳優たちの総称「ブラット・パック」では、ショーン・ペンやエミリオ・エステベスのほうが格上でした。『トップガン』の主演オファーも、「好戦的すぎる」という理由でショーン・ペンらが断り、トム・クルーズにチャンスが回ってきた次第です。
役づくりに定評があるショーン・ペン、芸能一家に生まれ育ったエミリオ・エステベスに比べ、トム・クルーズといえばルックスはいいもののそれほど目立つ存在ではありませんでした。でも、トム・クルーズには、ショーン・ペンらが持っていなかったものがあります。それは猛烈な上昇志向です。少年期に父親のDVに悩み、両親が離婚してからは経済的に苦しい生活を送っています。ショービジネスの世界で絶対に成功してみせるという、並々ならぬハングリーさがあのパキッとした笑顔の裏には隠されていたのです。
ブレイクする前のトム・クルーズは、チラシ広告に出てくる外国人モデルのような垢抜けないハンサム感がありましたが、『トップガン』が世界的な大ヒット作になったことで、洗練されたハリウッドスターとしての風格を漂わせるようになっていきます。成功体験は、人間を大きく変えていきます。
ビーチシーンに人気爆発
トニー・スコット監督が撮った『トップガン』の内容を、サクッとおさらいしておきます。海軍パイロットのマーヴェリック(トム・クルーズ)は腕はいいものの、無茶ばかりやる問題児です。海軍の優れたパイロットのみを集めて特訓するエリート養成機関「トップガン」に、相棒のグース(アンソニー・エドワーズ)と参加し、エースパイロットの座をめぐりアイスマン(ヴァル・キルマー)らと火花を散らします。
基地に着いて早々、バーへ繰り出したマーヴェリックは金髪美女のシャーロット(ケリー・マクギリス)をナンパしますが、小僧扱いされることに。翌朝、航空物理学の新任教官としてマーヴェリックたちの前に現れたのは、そのシャーロット。「漫画かよ!」と思わずツッコミたくなるようなベタな展開です。ケニー・ロギンスが歌う主題歌「デンジャーゾーン」、ベルリンのヒット曲「愛は吐息のように」が流れる合間に、とても分かりやすいライトな物語が進んでいきます。
マーヴェリックのライバルとなるアイスマンを演じたのは、ジュリアード音楽院演劇科卒業生というエリート俳優のヴァル・キルマー。トムやヴァル・キルマーが上半身裸でビーチバレーを楽しむシーンは、マッチョ好きな人たちを大変喜ばせたそうです。グースの奥さん役をメグ・ライアンが演じているのも、80年代を知る世代には懐かしいのではないでしょうか。
マーヴェリックの「無茶をやるけど、憎めない笑顔の持ち主」というキャラクターは、そのままトム・クルーズ自身のパブリックイメージとなっていきます。『トップガン』という作品との出会いが、トム・クルーズの運命を大きく変えたといっても過言ではありません。
芸能人やスポーツ選手は、なぜ新興宗教にハマるのか
ハリウッドスターの仲間入りを果たしたトム・クルーズは、その後はダスティン・ホフマンと共演した『レインマン』(1988年)、オリバー・ストーン監督のベトナム戦争もの『7月4日に生まれて』(1989年)などの社会派ドラマに出演し、俳優としての評価を高めていきます。そして、『ミッション:インポッシブル』(1996年)以降はアクション俳優&プロデューサーとして、唯一無二のビッグネームになっていきます。
トム・クルーズは『トップガン』の成功後、ハリウッドセレブの世界とは異なる、もうひとつ別の世界にも足を踏み入れます。俳優デビュー間もない頃は、TVドラマ『大草原の小さな家』の子役で有名だったメリッサ・ギルバートと付き合っていたトム・クルーズですが、1987年に6歳年上の女優ミミ・ロジャースと結婚。彼女がカルト教団「サイエントロジー」の信者だったことから、トムも入信することになります。
ミミ・ロジャースとは3年で離婚しますが、トムはその後もサイエントロジストのままです。サイエントロジー側は、トムのことを史上最高の広告塔として好待遇でもてなし続けています。
トムにしてみれば、夢を叶えて大スターにはなったものの、信頼できる人物は周囲に少なく、がっつりと信じられる対象が欲しかったんじゃないかと思います。トム自身はサイエントロジーと出会ったことで失読症を克服できたと語っていますが、本当にトムが失読症だったのかを怪しむ声も一部にあります。
新興宗教の信者に、芸能人やスポーツ選手が多いのは、自分の人気がいつまで続くか分からない恐怖心があるからでしょう。新興宗教はそうした人に巧みに近づきます。トムも自分が大スターへの階段をのぼり詰めていく快感に酔いしれながら、階段から転げ落ちていく恐怖も同時に感じていたんだと思います。酒やドラッグの代わりに、トムが選んだのが宗教だったわけです。
成功という名の果実がもたらす甘い甘い陶酔感と、いつ底が抜けて谷間に堕ちていくか分からないというヒリヒリする恐怖感。その両方に耐えられたものだけが、大スターでいられるのかもしれません。
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