『おむすび』第28回 誰も彼もが手を差しのべる結(橋本環奈)の「愛される資格」
#おむすび
「何のために生きてるのかわからなくなるよ。手を差しのべてお前を求めないさ、この街」とは、尾崎豊の「十七歳の地図」の一節です。
NHK連続テレビ小説『おむすび』も第28回。結ちゃん(橋本環奈)は今日も「かたくなな心と黒い瞳には寂しい影が」浮かんでたり、「心をいつでも輝かしてなくちゃならないってこと」を忘れてたりしますが、尾崎と違うのは、みんなが手を差しのべるんですね。ものすごく、手を差しのべる。のべすぎ。振り返りましょう。
■のべるのべる
震災のトラウマから、何かを一生懸命やっても「どうせ全部消えてしまう」という強迫観念にとらわれ、書道もギャルもやめてしまった結ちゃん。朝な夕なと実家の畑の手伝いに精を出しています。震災が来ても畑は消えないと思ってるんでしょうね。東日本沿岸の農地が黒い津波に飲まれて何もかもダメになるのは、この物語から数年後のことになります。結ちゃんが知らんのは仕方ないね。
いちおう学校には行っている結ちゃん。昇降口の掲示板には、書道部の風見先輩(松本怜生)と恵美ちゃん(中村守里)がそろって全国大会で表彰されたことを記した学校新聞が貼ってあります。結ちゃんが何やら物憂げにその掲示を眺めていると、恵美ちゃんと風見先輩が登場。イケメン風見がイケメンフェイスで結ちゃんを覗き込み「また一緒にやろ、いつでも戻ってき、待っとうけん」と優しく声をかけて手を差しのべますが、もう彼女持ちだと知っているのでときめかない結ちゃんは「すいません」と苦笑いを浮かべて立ち去ります。
続いて登場したのはギャルクラスメートのリサポン(田村芽実)です。リサポンは学校で結ちゃんにずっとシカトされているはずですが、まったくめげずに手を差しのべてきてくれます。明るく声をかけると、プレゼントだと言ってピンクの紙袋を手渡してくれました。例によって、結ちゃんはお礼とか言えない子なので、ここでも黙って受け取るだけ。
その紙袋をいつもの港で開けてみると、中にはハギャレンのみんなが一生懸命作ってくれたであろうアルバム的なものが入っています。「ムスビンありがとう」「感謝」「ずっと親友」、丁寧に切り抜いた写真と一緒に、ギャルたちが手書きで書いてくれたメッセージがあふれています。ルーリー(みりちゃむ)たちも、こうして手を差しのべてくれるのです。のべるねえ。
さすがに涙ぐんでいると、今度はカッパ(佐野勇斗)がのべにやってきました。自分は来年、エースとして甲子園に行く。自分は消えない。力強いまなざしで、そう結ちゃんを勇気づけてくれるのです。次々にのべられすぎて茹ってしまったのか、結ちゃんその場に倒れてしまいます。
結、昏倒の報を受けた姉・アユ(仲里依紗)は天神のバーで始めたバイトをほっぽりだして、一目散に実家に戻り、結ちゃんの部屋に。聞けば、結ちゃんが倒れたのは過労が原因だそうです。朝と夕方に畑の手伝いをしてて、過労になったんだって。
なんそれ!?
って話なんだけど、まあアユが誰よりも激しい「のべっぷり」を見せたことを表現するためのアレということでしょう。
■優しい人たち
というわけで、今回は結ちゃんの周囲の人たちがめちゃくちゃ優しいということが描かれました。書道部も、ハギャレンも、みんな結ちゃんをほしがってくれる。カッパは甲子園を目指しているのに、いつだって練習を放り出して結ちゃんに会いに来てくれる。アユも全力疾走で駆けつけてくれる。
ホントに優しい人たち。
でも、これはドラマであり、フィクションですから、松本怜生や佐野勇斗や仲里依紗が橋本環奈に優しいわけではありません。脚本家が結ちゃんという女の子を「こんなにも優しくされて、しかるべき人物である」と考えているということです。不愛想で、人に感謝できないこの女の子に、これほどまでに「愛される資格がある」と考えている。ここまでの『おむすび』全27回で「愛される資格がある人」を描いてきたと自負している。
尾崎豊は「俺に愛される資格はあるか」と切実に問うたよ。
ボブ・マーリーだって「クジュビラー?(Could you be loved?)」と何度も問いかけたよ。
人に愛されるって、こんな簡単なことじゃないと思うよ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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