『おむすび』第27回 被災のトラウマだけを描く片手落ち感 米田結は9年間、何を見てきたのか
#おむすび
今日も今日とて不機嫌な結ちゃん(橋本環奈)の不貞腐れ顔を眺めることになったNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』も第27回。昨日、伏線の張り方が唐突すぎてついていけないというようなことを書きましたが、今日はまたひとつ、新情報を積み重ねてきました。
もう何が何だか。振り返りましょう。
■とにかく性格が悪いとしか
泥酔したパパ(北村有起哉)が「結まで不良になったら」などと咽び泣くのを目の当たりにし、ハギャレンとも書道部とも決別した結ちゃん。まるでコレクションしていた鉄道模型を突然奥さんに捨てられてしまった夫(いにしえのネットミーム)のようにシケた顔で農家の手伝いをしています。
心配するパパは「書道部までやめんでも」と言ってくれますが、「別に」で返す結ちゃん。もう誰の話も素直に聞く気はないようです。
心配しているのはパパだけではありません。姉のアユ(仲里依紗)はわざわざ天神に出向いて、ハギャレンのみんなに結の様子を聞きに行きます。アユはこの子たちに「ハギャレンやめろクソダサい」などと言ってしまった手前、ばつが悪いことこの上ないですが、優しいお姉さんですね。
聞けば、結ちゃんはクラスメートギャルのリサポン(田村芽実)が話しかけても「話もしてくれない」そうです。こないだまで一緒にパラパラ踊って楽しそうだったし、そういう楽しい思いをさせてくれたきっかけはリサポンだったのに、ひどい仕打ちです。シンプルに性格が悪いとしか言えません。
その後、家でナスの袋詰めなどをしていると、カッパ(佐野勇斗)がやってきて「ごちそうになったお礼だ」と言ってイチゴジャムを差し出すシーンがありますが、ここでも結ちゃんは「そこらへんに置いといて」と一瞥をくれるだけ。ホント、シンプルに性格が悪い。
カッパも優しいので結ちゃんを気遣いますが、「もう何もせん」「どうせ全部消えてしまう」などとトラウマをご開帳。ホント、結ちゃんってイケメンにだけは素直になりますよね。
一方、アユはアユで大騒ぎ。「付き人」を名乗る男(一ノ瀬ワタル)が突然実家を訪れ、「アユは大女優だ」などと言いだします。全然知らなかったおじいちゃん(松平健)は大はしゃぎですが、付き人を発見したアユは一目散に逃げだし、天神のギャル友に「今夜泊めて」とお願いするのでした。
はて、大女優……?
■米田結の抜け落ちた9年間
大女優の件は、まあいいや、ちょっと置いときましょう。どうせ大女優じゃないんだろうし、そのうち何か説明があるんでしょう。今のところアユについては、なぜこのタイミングで帰ってきたのかも、東京で何をしていたのかも、なんで神戸に家族で移り住みたいと思っているのかも、「うちはニセモノ」「ギャルじゃなかった」という発言の真意も、そんな気持ちで九州のギャルを束ねるほどのカリスマ性を身につけた経緯も、上京した時期もきっかけも、何もわかりません。何もわからない上に「大女優である」「たぶん大女優じゃない」という謎が2つ重ねられたわけで、もう視聴者の理解を拒絶しようとしているとしか思えない。
で、今回のポイントとしては結ちゃんが「全部消えてしまう」と感じていて、何事にも積極的になれない理由が震災のトラウマであることが明言されました。そういえばパパも震災からの日数を正確に毎日数えているという描写が最初のほうにありましたね。結ちゃんもパパも「あの日から時が止まっている」ということにしたいのは、よくわかりました。
それと、アユのギャル化、奔放な生活、家族の混乱というものが結ちゃんの人格形成に大きな影響を与えていることも語られている。
この9年間、結ちゃんはどんな子だったのか、それが完全に抜け落ちているために、共感できないのです。あの震災で死ななかった人はみんな、神戸がどんなふうに復興していったのかも見ているはずなんだよな。震災の当年にはプロ野球のオリックスが「がんばろうKOBE」の旗印の下で優勝を果たし、フィーバーに沸きました。毎年「神戸ルミナリエ」が開催され、このドラマにおける「現代」となる平成16年には、神戸市の人口が震災前を超えています。糸島にいたって、そういう風景はテレビで見てきたはずなんだ。あれだけ神戸に固執するパパがいるんだから、神戸の話だってしてきたはずなんだ。1回くらい、復興した神戸を見に行っててもいいはずなんだ。
トラウマを描くのはいいけど、「被災」の傷だけ描いて「復興」という人間の営みを無視していたら、やっぱり震災とその後を描くドラマとして片手落ちだと思うわけです。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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