【24年秋ドラマ】『嘘解きレトリック』第5話 原作通りならいいのか……「正しいコミックの実写化」とは何か
#嘘解きレトリック
人のウソを見抜いてしまう特殊能力を持った少女・鹿乃子(松本穂香)と、優れた推理力がありながら仕事が全然ない探偵・左右馬(鈴鹿央士)の探偵コンビが昭和レトロな舞台で難事件に挑むドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)も第5話。
その能力によって、幼いころから疎まれて育ってきた鹿乃子が天真爛漫な左右馬と行動を共にすることによって心を開いていく様子が繊細に描かれていたりして好印象なわけですが、何より「ウソが分かる」という探偵にとってチートとも思えた鹿乃子の能力が、謎解きにおいて決して全能ではなく、左右馬の推理力と互いに補完し合いながら事件を解決していく感じが大変心地よいミステリーとなっています。
第5話は、前回提示された「人形殺人事件」の解決編。今回も気持ちよく解決されました。振り返りましょう。
■あふれ出る金田一オマージュ
昭和初期の山村を舞台にした今回の事件。日本人形がたくさん出てきたり、川っぺりで女の人が死んでいたりと、いかにも横溝正史チックな風景が広がっています。「わかった!」と言って全然わかってないダメ刑事も出てきますし、金田一耕助シリーズへのオマージュが感じられます。
事件は、あるお屋敷で死んだはずの少女が人形と入れ替わっていたというもの。実際、死んだはずの少女は生きていますし、左右馬や鹿乃子と食卓を共にしたりしていましたので、謎は深まるばかり。
そこで左右馬はこの少女・品子(片岡凜)の一人称が2種類あることに思い当たります。「私」と言うこともあれば、「品子」と言うこともある。左右馬は品子が双子であることを疑いますが、品子は「双子ではない」と証言。その証言が本当であることは、鹿乃子の能力によって裏付けられています。
結論としては、品子は三つ子でした。かつて、双子や三つ子は災厄を呼ぶとされ、疎まれていた。当時としても珍しいことですから、一度の妊娠で多数の子を産む動物になぞらえて、双子や三つ子を生んだ母親は「畜生腹」なんて呼ばれていたそうですね。よく考えるよな、「畜生腹」なんて言葉。
そんなわけで、三つ子を生んだ母と父は彼女たちを一人娘・品子として育てることにした。三つ子の品子は屋敷の離れの奥の隠し部屋で育てられ、品子たちもその状況を自然と受け入れるしかなかった。両親が亡くなった後も、その風習だけが残ったのでした。
口が3つで、品子。悲しい名前です。
不慮の事故で品子のうちの1人が亡くなり、残された2人の品子は、その意味もわからないまま恩讐に囚われていくことになる。やがて1人がすべてを明らかにしようとして仲違いが起こり、また屋敷には血が流れることになる。
品子と同じように、人に疎まれて育った鹿乃子には彼女たちのウソがわかりますが、わかったからといって、どうすればいいかはわかりません。ウソを暴けば、誰かが悪者になってしまう。思い悩む鹿乃子の脳裏に、左右馬の「正しいと思うことをしなさい」という言葉が浮かぶのでした。
そうして品子が住む屋敷の謎は暴かれ、2人の品子はそれぞれの人生を歩みだすことができたのでした。というお話。今回もよくできてる。眼福。
■大ネタを持ってきたなという
3話までで自己紹介と事件解決プロセスのテンプレートを披露しておいて、第4・5話でさっそく大ネタを持ってきたな、という印象です。劇場版があるかわからないけど、とっとけばいいのに、と思うくらいスケール感と悲哀に満ちたエピソードでした。
『嘘解きレトリック』はコミックの実写化として、かなり成功している部類に入ると思います。トリックやセリフはほぼ原作通りに引用しながら、原作の世界観を立体化している。でも、「だからこれが正しいコミックの実写化だ」とは言いたくないんですよねえ。大幅な改変をしないことこそ正義とされてしまうと、ドラマというメディアはすごく幅を狭めていくことになると思うし、それこそ前クールの『降り積もれ孤独な死よ』(日本テレビ系)なんかは、コミックを大幅に改変して半分くらいオリジナル要素だったけど、すごくおもしろかったもんね。
結局のところ、改変のあるなしではなく、ちゃんとした人がちゃんとやってるから成功してるという、身もふたもない結論になってしまうのだけど。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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