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【24年秋ドラマ】『海に眠るダイヤモンド』野木亜紀子版『タイタニック』は時代を遡る

【24年秋ドラマ】『海に眠るダイヤモンド』野木亜紀子版『タイタニック』は時代を遡るの画像1
神木隆之介(写真/Getty Imagesより)

 テレビ界と映画界との境界を越えて、今もっとも注目を集めているクリエイターは、脚本家の野木亜紀子で間違いないでしょう。新垣結衣主演ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、社会現象級の大ヒット作となりました。邦画では珍しいホラーアクションもの『アイアムアヒーロー』(2016年)や実在の事件を題材にした『罪の声』(20年)の脚本も手掛け、成功させています。今年はコメディ映画『カラオケ行こ!』と社会派サスペンス『ラストマイル』が続けて公開され、話題となりました。キャストの魅力を引き出しつつ、硬いテーマもエンタメとして見せる手腕に優れています。

 野木亜紀子、その名前がドラマの冒頭で華々しくクレジットされたのが、10月20日より放送が始まった日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)です。演出は塚原あゆ子、プロデューサーは新井順子と、『アンナチュラル』『MIU404』(共にTBS系)に『ラストマイル』をヒットさせた黄金チームです。36歳のときに野木亜紀子はヤングシナリオ大賞『さよならロビンソンクルーソー』(フジテレビ系)で脚本家デビューを飾り、わずか14年のキャリアで、倉本聰や山田太一級のビッグネームになった感がします。

 主演は「日曜劇場」初主演となる神木隆之介。2021年にアミューズから独立し、NHK連続テレビ小説『らんまん』や『ゴジラ-1.0』(23年)などに主演し、安定した演技力を見せています。期待感しかないドラマです。

 物語の舞台となるのは、長崎県長崎市の沖合にある「端島」という小さな島。良質な石炭が採掘できるため、わずかな岩礁を埋め立ててできた半人工島です。高層マンションが立ち並ぶ光景が戦艦を思わせることから「軍艦島」と呼ばれています。1974年に閉山されてからは、廃墟マニアたちに知られるゴーストタウンとなっています。

 そんな時代に取り残されてしまった小さな島が、キラキラと輝いていた時代を再現し、日本の近現代史を描こうというTBS版壮大な大河ドラマになることが予定されています。

杉咲花、土屋太鳳、池田エライザの3人ヒロイン

 軍艦島を舞台に、神木隆之介扮する主人公一家の物語に恋愛要素が絡められることから、野木亜紀子版「タイタニック」とも呼ばれています。映画『タイタニック』(1997年)と同様に、往年の軍艦島の様子や生活ぶりが、実写ロケ、巨大セット、CGを組み合わせ、リアリティーたっぷりに蘇らせています。TBSの本気度を感じさせます。

 神木隆之介が『タイタニック』の主人公レオナルド・ディカプリオなら、ヒロインのケイト・ウィンスレットに当たるのが、大ベテラン女優の宮本信子です。宮本信子演じる謎の老女・いづみが、軍艦島で過ごした青春の日々を回想する形で、物語は進んで行きます。

 神木隆之介が冴えない金髪ホストの玲央を演じる現代パートと、1950年代の活気ある軍艦島で働く鉄平を演じる過去パートが、交互に描かれていきます。鉄平の周囲には、食堂で働く幼なじみの朝子(杉咲花)、鉄平と共に長崎大学で学んだ百合子(土屋太鳳)、島に働きに来たジャズ歌手のリナ(池田エライザ)がいます。

 異例とも言える豪華な3人ヒロイン体制。はたして、鉄平にそっくりな玲央に「私と結婚して」と求婚した金持ちばあさん・いづみは、この3人の誰なのでしょうか。ミステリー仕立てで視聴者の興味を引くあたりも、野木脚本は今回も冴えています。

理想の共同体だった軍艦島での生活

 25分拡大となった第1話「地底の闇を切りひらく」は、平均世帯視聴率11.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好発進でした。炭鉱夫として働く父親・一平(國村隼)とケンカしながらも、生まれ育った軍艦島で炭鉱会社の職員として、鉄平は働き始めます。日本初の高層マンションでの近代的な生活ですが、炊事場や洗い場は共同だったため、ご近所さんとは家族同然の濃厚なお付き合いがあったそうです。

 食堂、売店、郵便局だけでなく、共同浴場、映画館、ビリヤード場、遊郭なども軍艦島にはあったことが知られています。端島銀座はいつも賑わっていました。汗を流して真面目に働けば、生活は豊かになると信じられた高度経済成長時代の物語が、郷愁いっぱいに描かれていきます。

 第1話のキーワードになったのは、「ちゃんぽん」でした。長崎名物の具沢山な麺料理のことですが、いろんなものがごちゃまぜになった状態が本来の意味です。軍艦島には、各地から労働者が集まり、いろんな言葉が融合した「端島弁」が存在すると鉄平は誇らしげに語ります。多様性の時代を先取りしていた共同体でもあったようです。

 軍艦島の職員クラブで働き始めたリナは、取引先の社長(坪倉由幸)からセクハラまがいの行為を受け、拒絶したことからクビになってしまいます。「たかが端島の炭鉱風情の女が」というセクハラ社長の言葉に、鉄平は憤慨。島での居場所を失いかけていたリナを気遣い、島民のソウルナンバーである「端島音頭」を歌ってほしいと懇願します。

 島の中心地である「地獄段」で、リナは「端島音頭」を朗々と歌い上げます。リナが歌う「端島音頭」を、島で暮らす人たちも粋に感じます。日々体を張って、命懸けで働く炭鉱夫ファミリーは情が厚いことが伝わってくる第1話のクライマックスでした。人情長屋のような心温まる営みが、軍艦島では息づいていたことが分かる、まずまずの出だしだったように思います。

第2話は『タイタニック』ばりのパニック巨編に

 食堂の看板娘・朝子役の杉咲花が、めちゃめちゃかわいく映っていたことも特筆されます。台詞なしでも、朝子は鉄平に想いを寄せていることが髪をいじる仕草や目の表情から伝わってきます。新垣結衣が『逃げ恥』で大ブレイクしたみたいに、杉咲花にとっての代表作になりそうな予感がします。

 第1話では、杉咲花と池田エライザに美味しい出番は取られたかっこうとなりましたが、これまでとは雰囲気が違う大人っぽい土屋太鳳にも注目したいと思います。日本のエネルギー政策の方向転換によって、怒涛の展開を迎える今後のストーリーのキーパーソンになるんじゃないでしょうか。

 11月3日(日)放送の第2話は、軍艦島を巨大台風が襲うことになります。名前はごっつい軍艦島ですが、津波や台風が天敵でした。大型台風が来ると、島の中心部まで水びたしとなり、船が欠航するために生活物資も供給がストップし、島民生活は麻痺状態になったと言い伝えられています。楽園のような島での暮らしは、瞬く間にパニック状態に陥りました。映画『タイタニック』を思わせるスペクタクル巨編に、第2話はなりそうです。

 また、島にはお寺があったこと、近くの無人島が火葬場だったことが第1話では触れられていました。重要な人物に死が訪れることがすでに織り込まれています。映画の2時間枠では描けない大河ドラマ性とテレビドラマの常識を凌駕したスケールを持つ、野木版「タイタニック」の行方に注目したいと思います。

最終更新:2024/11/03 09:00
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