【24年秋ドラマ】『全領域異常解決室』第3話 「全部わからせない」という美学の結実とオカルトの存在意義
#全領域異常解決室
昨日YouTubeで見た動画で、今年の『キングオブコント』(TBS系)で優勝したラブレターズが先輩に言われた印象的な一言を紹介するみたいな企画をやってまして、大竹まことにこんなことを言われたんだそうです。
「全部わからせるな」
コントを作る上で、何もかも全部説明する必要はない。謎の部分を残しておいていいということです。
ドラマ『全領域異常解決室』で、主人公の興玉(藤原竜也)が同じことを言ってるんですよね。
「わからないことは、わからないままでいいじゃないですか」
「すべてをわかろうとするのは人間の傲慢です」
主人公にそういうセリフを言わせるということは、まさしく作り手が「全部わからせない」ことを意識して作っているということで、おお、同じ日に別の場所で同じことを言っている、シンクロニシティだ、などと感じたものです。
それで言うと、このドラマの第1話の「シャドーマン」のトリック、第2話の「キツネツキ」の原因解明のくだりは、ちょっと「わからせ」ようとしすぎてたのかもしれない。オカルトをリアルで解明するというカタルシスを優先しすぎた故に説明過多になって、無粋なツッコミどころが露見してしまったような。モザイクスプレーとか。
今回の第3話、「空から足が降ってきた!」は、そのサジ加減がちょうどよかったと感じました。そうそう、これくらいわかんなくていいのよ~という感じ。振り返りましょう。
■『マグノリア』のやつねー。
空から足が降ってきたとなると、ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『マグノリア』(99)のカエルが降ってくるシーンをどうしても思い出すわけで、あの現象の名前は憶えてなかったけど「ファフロツキーズ」というんですね。
今回はおのずと、冒頭に空から降ってきた足とセスナの機体の一部が、どうやって興玉氏が「これはファフロツキーズだ」という結論にたどり着くのか、そして、その中でどんな人間ドラマが語られるのか、という見方になりました。
子どもたちが遊んでいる超高層マンションの前の広場に、ある日突然、人の足とセスナの残骸が降ってきた。身分証も一緒に落ちてきて、調べてみると4年前に上空で消息を絶ったある研究者のものらしい。
この状況から、興玉さんはまず「タイムホール」の存在を見立てます。時空の歪みを利用して時間や距離を超える抜け道のようなもので、「ワームホール」とも呼ばれるアレですね。
落ちてきた“足の人”はこの「タイムホール」を研究していた研究者で、部下の女性と一緒に「タイムホール」の解明に成功したと発表しましたが、その後、部下の女性のデータ捏造が発覚。この女性が「タイムホールは、ありまぁ~す」と言い残して(言い残してない)姿を消し、その1カ月後に上司だった“足の人”が消息を絶ったとのことでした。
この「タイムホール」→「ファフロツキーズ」という現象の解明と並行して、研究者たちの痴情のもつれだったり純愛だったり、研究者たちが天才だったりMADだったりと、ドラマ要素てんこ盛りで見ごたえのあるミステリーになっていました。
ところで「ファフロツキーズ」という現象は、どことも知れない場所に急にわけのわからないものが降ってくるところにロマンがあったりするわけですが、今回は事件関係者の住むマンションの真ん前に落ちてきているわけです。うがった見方をすれば「出来すぎだろ」って話なんですが、興玉さんの言う通り「可能性はゼロじゃない」んですよね。可能性がゼロじゃなくて、ほかに論理的に説明できる方法がなければ、結論はそうするしかない。本当にそうなのか、と疑義を呈したところで「じゃあタイムホールの存在を信じるんですか?」と問われれば、うぐぐとなるしかない。
このへんが、サジ加減がちょうどいいと感じた部分です。
そう感じさせておいて、最後にタイムホール本当にあるかも? というステキエピソードを差し込んできたのが、さらにオシャレでした。今回はオシャレだったな。
■逆から辿ってみる
ここまでの3話のトリックを逆から辿ってみると、第1話は「モザイクスプレー」→「シャドーマンの正体」、「メタンガス中毒」→「キツネツキの正体」、「ファフロツキーズ」→「タイムホールの正体」ということになります。
モザイクスプレーは完全に架空のふしぎ道具、メタンガス中毒は一般に理解しうる事故と、フィクションとリアルの両端に完全に振り切っているものだったわけですが、今回のファフロツキーズは「現実にそういうことがあるという情報は知ってるけど、ホンマかいな、信じられへんわ」というくらいの位置づけなんですよね。
その位置づけが絶妙に作用して、今回のエピソードにはちょっとした浮遊感が生まれている。人間ドラマのパートをガチガチに固めておいて、「オカルトをリアルで解き明かす」という手法を標榜しているミステリーで、この浮遊感、具体的にいえば「わからないって、おもしろいな」という感覚を与えてるのは、けっこうすごいバランス感覚だと思うわけです。
「わからないって、おもしろい」という価値観って、この社会におけるオカルトの存在意義そのものですからね。
縦軸になっている「ヒルコ」の存在も徐々に明らかになっていますし、小日向文世は明らかに怪しい動きをしてますし、今後への期待はますます高まるばかりです。がんばってほしい。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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