【24年秋ドラマ】『わたしの宝物』第1話 「托卵女」と「モラハラ夫」を眺める悪趣味な観察記録
#わたしの宝物
ドラマの世界には、世の中にじんわりと浸透してきた言葉や現象や空気感を物語に立ち上げ、それを具現化して見せてくれる魔法使いみたいな人がいます。フジテレビの三竿玲子プロデューサーは「それは女にとって」という視点に特化して世の女性たちの関心事をドラマにしてきた人です。
『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』では日中不倫、『あなたがしてくれなくても』では夫婦間のセックスレス、そして今回の『わたしの宝物』では、「托卵」がテーマとなりました。
妻が夫以外の子どもをお腹に宿し、その子を「夫の子」として、夫を騙したまま産み育てていくこと。世の中にはそういうケースもあるのでしょうし、バレずに一生を終えた夫婦もあれば、バレて地獄を見た方々もあるのでしょう。『わたしの宝物』は、そのひとつのモデルケースを提示していくことになります。
普通に考えて「托卵」が起こるケースは妻の不倫、不貞行為が原因であることが大多数でしょうから、法的にも心情的にも「妻が悪い」ということになります。『わたしの宝物』の公式ホームページでも、妻を「悪女」と表現しています。
「悪女になるなら、月夜はおよしよ、素直になりすぎる」とは中島みゆき大先生の名言ですが、くしくもこのドラマがスタートした10月17日は、今年最大の満月「スーパームーン」が夜空に浮かんでいたそうです(本当)。
では第1話、振り返りましょう。
■旧姓で呼んでくるかわいい男
主人公のミワさん(松本若菜)は結婚5年目の専業主婦。結婚当初は仕事をしていたようですが、夫であるヒロキ(田中圭)の「家にいてほしい」という希望もあって、今は家庭に入っています。ごはんもちゃんと作るし、掃除もしっかりしているようだし、夫が夜中に同僚を連れてきても凝ったおつまみを用意するなど、非の打ち所のない良妻です。幼いころからの夢だった「文鳥を飼う生活」も手に入れ、お友達のシンママ・マコト(恒松祐里)ならずとも、羨むところです。
しかし、夫婦の間はとことん冷え切っていたのでした。仕事が忙しいのか何か知らんけどヒロキはミワさんの全部につっかかってくるし、それでもミワさんがニコニコと愛想を振りまけば「笑うな!」とか怒鳴ってくるし、なんで不機嫌なのかも説明しないし、とにかく終始イラついています。
「子どもができれば少しは変わるかも」と意を決したミワさんが話し合いをしようとしても、まったく相手をしようともしません。もう離婚しちゃえばいいじゃんと思うんだけど、ミワさんには入院中のママ(多岐川裕美)の治療費を出してもらってたり、ママが作った借金を清算してもらったりという負い目があって、そう簡単に別れることもできない。そもそも仕事も辞めちゃってるし、差し当たってこの人と生活していくしか選択肢がありません。というか、それしか選択肢がないと思い込まされているというのが正確なところでしょう。いつの間にか、金と世間体に支配され、心を殺して生きてしまっていた。それがミワさんという女性の生活のリアルでした。
そんなくすんだ日々を送っていたミワさんがある日、中学時代に通っていた図書館で思い出の人と再会します。2つ年下のかわいい男の子は大人になっていて、あの頃と同じようにミワさんを「ナツノ」と旧姓で呼びました。その男・冬月(深澤辰哉)は、経営していたフェアトレードの会社をバイアウトして、もうすぐアフリカに旅立つという。現地に学校を作るという、それはもうステキ一辺倒の男になっていたのでした。
冬月に誘われるまま、ヒロキに内緒で冬月たちが主催するフリマの手伝いをすることにしたミワさん。久しぶりに超楽しいし、冬月に「ナツノ」と呼ばれるたびに心の奥底が疼くことも自覚し始めました。
その夜、なんか知らんけど強引に抱いてきたヒロキにムカついてプチ家出したミワさんは、再び朝方の図書館で冬月と再会します。冬月はアフリカに学校を建てるほどのバイタリティを持つ男ですので、渡航当日の午前中にもかかわらずミワさんを家に呼んでセックスをしました。夜はヒロキ、朝は冬月と、ミワさんこの日はダブルヘッダーをこなしたことになります。夫への不満と、学生時代に好きだった人との再会。まあ人妻が不倫する典型的なパターンです。
ここからは急展開。ミワさんの妊娠が発覚し、生前DNA検査によってそれが冬月の子であることが判明すると同時に、ニュース映像の中では遠くアフリカで冬月がテロに巻き込まれて死亡していました。
キラキラと朝日の差し込む白い部屋で冬月の腕に抱かれながら「待ってて」なんて言われちゃって、一時はヒロキとの離婚も決意したであろうミワさん。冬月が遠くアフリカで命を落としたことを知り、深く思い悩むことになります。雨の中、傘もささずに自分の心と向き合ったミワさんは「この子を産みたい」と思い至り、ヒロキに告げるのでした。
「妊娠した。あなたの子よ」
うへえ、悪女爆誕。次回へ。
■すんごいモラハラ夫として
知らない男に妻を寝取られ、孕まされた上に、その子を自分の金で育てることになったヒロキは被害者です。自分は必死に働いて家計を支えているし、妻の親も援助してるし、何しろ不倫をしていません。
しかし一方で、すんごいモラハラ夫として描かれています。ミワさんへの態度は耐え難いものがありますし、もう人間同士の関係としては破綻しています。世の中の「イヤな夫」像を丸めて煮しめて出来上がったようなクソ人間、言語道断、万死に値する、天誅を下すべき夫、それがヒロキなのでした。そしてヒロキはそうなってしまった自分に、コンプレックスが宿っていることも自覚しています。
「いつも笑ってるんだろ、外面だけだって」
そうミワさんに吐き捨てたヒロキには、ヒロキなりの苦悩があるようです。
誰が悪いとかそういう話でなく、こうなっちゃった夫婦が今後どうなっていくのかという、ある意味で悪趣味な観察記録を見ていくようなドラマになっていくのでしょう。誰が悪いとかそういう話じゃないけど、午後イチの便でアフリカ行くのに午前中に人妻抱いてる冬月は、けっこう悪いと思うよ。ちゃんと避妊しろ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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