大人になった『アリス・イン・ワンダーランド』、ティム・バートンは“変節”したのか
#金ロー #アリス・イン・ワンダーランド #ティム・バートン
失われたモンスターたちへの共感
ティム・バートンのファンは、『ビートルジュース』(1988年)や『マーズ・アタック!』(1996年)などのおかしな世界に夢中になったものです。ジョニデが主演した『エド・ウッド』(1994年)や『スリーピー・ホロウ』(1999年)は映画史に残る名作です。世間から理解されない者の哀しみが、スクリーンから痛いほど伝わってきました。その点、ディズニーに凱旋して制作した『アリス・イン・ワンダーランド』はゴージャスはゴージャスなんだけど、過去のティム・バートン作品の自己模倣に過ぎないんですよ。
ティム・バートンが製作総指揮したストップモーションアニメ『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)と違って、CGを多用しているのも違和感を抱いてしまう要因です。ティム・バートンっぽいけれど、かつてのティム・バートンとは違う作品に感じてしまいます。
ストーリー的にも、これまでのティム・バートンとの違いが現れています。『シザーハンズ』の「ハサミ男」エドワードや『バットマン リターンズ』(1992年)のペンギンといった哀しみを背負ったモンスターたちに、観客は感情移入して号泣したものです。
しかし、『アリス・イン・ワンダーランド』では、頭の大きなことがコンプレックスになっている赤の女王やアリスが戦う怪物のジャバウォッキーは、最初から最後まで悪役のまま。いかにもディズニー作品らしい、勧善懲悪の物語にまとめられています。
ヒットメーカーとなり、変節する人気監督たち
同じように孤独な少年時代を過ごした人気映画監督に、スティーブン・スピルバーグがいます。『未知との遭遇』(1977年)や『E.T.』(1982年)で異星人に想いを寄せていたスピルバーグですが、すっかり大監督になって立場が変わります。トム・クルーズ主演のSF大作『宇宙戦争』(2005年)では、異星人を憎むべき侵略者として描いています。アポロ帽を脱いだスピルバーグには、なんだか裏切られた気がしたものです。
ティム・バートンの場合、作風が大きく変わった理由として、家庭を持ち、父親になったことが指摘されています。『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(2001年)をきっかけに、ティム・バートンは英国の演技派女優ヘレナ・ボナム・カーターとの交際を始めました。正式に結婚することはなかったものの、2人の間には一男一女が誕生しています。我が子が観ても安心なディズニー映画を、子煩悩な父親になったティム・バートンはつくったわけです。
孤独なオタク少年だったティム・バートンは、映画界のヒットメーカーとなり、家庭にも恵まれ、オタクではなくなってしまいました。劇中、アリスはワンダーランドの住人たちから「昔のアリスとは違う」と言われますが、それはティム・バートン自身のことだったのです。
交際相手のキラキラ度が、作品のバロメーター
その後のティム・バートンは、かつての短編映画の長編リメイク作『フランケンウィニー』(2012年)やディズニーアニメの実写化『ダンボ』(2019年)など、あまりパッとしない作品を残すようになりました。
このままティム・バートンは枯れちゃうのかな~と思っていたのですが、久々のヒット作となったのが現在公開中の『ビートルジュース ビートルジュース』です。ウィノナ・ライダーやマイケル・キートンらが36年ぶりに、前作に続いて出演した同窓会的なホラーコメディです。キャストの中でひときわ目を惹くのは、ティム・バートン作品初参加となるモニカ・ベルッチです。つぎはぎだらけのコープスブライド姿が、モニカ・ベルッチの美しさをより際立たせています。
出演女優がピカピカと輝いているときのティム・バートンは、演出も冴え渡っています。案の定、ヘレナ・ボナム・カーターと別れた後のティム・バートンは、モニカ・ベルッチと交際しているそうです。私生活での感情やテンションが、そのまま作品に反映されるのがティム・バートンの世界です。ある意味、とても自分に正直なクリエイターなんだなぁと思います。
ヘレナ・ボナム・カーターが恐ろしい暴君を演じている『アリス・イン・ワンダーランド』も、ティム・バートンの当時の潜在意識がリアルに投影された作品なのかもしれません。
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