『キングオブコント2024』祝ラブレターズ、尻穴に翻弄されたコント師たちの運命の悪戯【後編】
#キングオブコント
■仕掛けの美しさの最高潮
その飯塚が今回、最高点の98を与えたのがファイヤーサンダーの「毒舌散歩」だった。やはり仕掛け、発明の強みである。冒頭でこてつが甘噛みした瞬間、一瞬だけ10年のキングオブコメディ「教習所」が頭をよぎって寂しい気分になったが、あとは台本を正確に読んでさえいれば自動的にバカウケしてしまうのが、このネタの仕掛けの強さである。
cacaoは野球部というモチーフに加えて「めちゃくちゃ上手い奴」という設定までがニッ社とかぶる不運もあったが、じろうと飯塚はcacaoに軍配を上げている。これも笑いの量というより、じろうと飯塚にとってcacaoのほうがより減点対象が少なかったということに見えた。ここは山内の91が響く。山内の91はcacaoのほか、コットンと隣人。展開力と終わり方を重視した審査だと思われる。
隣人は、昨年2本目に用意していたネタをブラッシュアップしてきた。『キングオブコント』本番においては昨年の続編であるという見方は当然されないわけで、やはりお笑いマニアが集まった準決勝より格段とウケが少なかった。
そして、ラブレターズである。昨年と同じ10番手。こちらは正しく、ラブレターズというコンビが紡いできた物語の続編だった。ともに39歳、とっくに人の親になっている年代だし、そのキャリアは望まずとも哀愁を感じさせるものだった。突出して高い点数を入れた審査員はひとりもいない。だが、認めざるを得ないコントがそこにあったということだ。
じろうが審査コメントで溜口の小ささに言及していたが、その発言が図らずも2本目の伏線になった。
■もっと小ささがおもしろくなる
2本目のラブレターズ、金髪のヅラをかぶって出てきた白人風の溜口は、1本目の父親よりもっと「大きくあるべき」キャラクターである。190センチはあってほしいところ、横にいる可憐な(?)女性と同じくらいしかない。しかも、顔だけデカい。顔がデカいし、クドい。存在だけでおもしろくなってしまっていた。
そして、その出オチを上回るカオス。山内はこの日の最高点である96を入れている。展開や物語を重視するコメントを出してきた山内がここにきて最高点を入れてきたことに、山内という芸人がお笑いに対して求めているロマンの形を見た気がした。
ロングコートダディ、ファイヤーサンダーのネタが進むにつれ、ラブレターズが優勝する機運が高まってくる。ネタに笑いながら、最後にはラブレターズに笑ってほしいと思い始めている。
決勝の審査では、審査員全員が点数に差をつけた。
ラブレターズをトップにしたのは、山内ただ1人。じろうと秋山はロコディを1位とし、小峠と飯塚はファイヤーサンダーをもっとも評価した。最終的な結果は、947-946-945。2本ネタをやって、5人が審査をして、2点差の中に3組がひしめき合う、まさに薄氷の勝利だった。
■や団が尻穴じゃなかったら
もしもの話をしたい。いや、飯塚がや団の尻穴を減点対象にしたかどうかもわからないから、もしもの、さらにもしもの話だ。
飯塚がや団に94を入れていたとすると、ファーストステージの点数が476になり、ファイヤーサンダーと1位タイで並んで最終に進んでいたことになる。次点でロコディとラブレターズが475で並ぶが、この2組での投票になっていたとしたら、じろうと飯塚は「96-95」でロコディ、小峠は「96-94」でラブレターズ、同点を付けた山内と秋山の投票次第となり、ラブレターズがファーストで敗退していた可能性も十分にあるのだ。
もしもの、さらにもしもの話だが、尻穴がコント師たちの運命を左右したと考えるとなんだかおもしろいので、そういう結論にしておきたい。
■審査員が全員現役だったこと
審査員が全員現役世代だったこともあり、今回は点数とそれぞれの審査員が作っているネタの内容との対比が実に興味深い大会だった。
ラブレターズの2本目に山内が最高点を入れたことに、「お笑いに対して求めているロマンの形」と書いた。飯塚がシティホテルとファイヤーサンダーを評価して、や団とニッ社に厳しかったこと。逆に小峠がニッ社に大喜びだったこと。破壊と規律、ルールの中と外、やはりそれぞれにロマンを見た気がした。ロコディの1本目、2人の人間の人格と軋轢と許容、それはシソンヌが「野村君」で描いてきた構図そのものだ。
そしてここに至り、松ちゃんの不在に思い当たるのである。やはりどうしたって、自由に審査しているように見えてしまうのだ。「松ちゃんとそれ以外」だった審査員席が、5つの「個」になったように見えてしまうのだ。コメントの際に緊張を強いる人間はもういないし、仮に外してもまとめて落とす頼りがいのある男もいない。
「審査員もまた、視聴者に審査されている」とは賞レースの場でよくいわれる言葉だが、今回の『キングオブコント』はそんな審査の方向性やコメントも含めて、より楽しめるものだったように思う。
だからこそ浜ちゃんの山内に何回も振るノリなんかがちょっとストレスだったんだけど、蒲田スタークがビシッと言ってくれたのでよかったです。
あと、個人的にいちばん笑ったのはニッ社の全部と、ラブレターズの2本目で塚本がチャント歌いながら跳ね出したところでした。これ、書いとかないとな。
(文=新越谷ノリヲ)
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