『光る君へ』一条天皇崩御後、道長が敦康親王へ与えた“まぶしき闇”なる“おもてなし”
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一条天皇の崩御と平安貴族による“闇”
ネタバレになりそうですが、一条天皇(塩野瑛久さん)は寛弘8年(1011年)6月に崩御しておられます。数え年32歳の若さでした。ドラマの一条天皇はまだまだお元気そうですが、史実の一条天皇は体調がすぐれないことを理由に、何度も譲位を切り出していたにもかかわらず、道長がそれを認めなかったので、天皇の体調はさらに悪化したという経緯があります。道長にとっては自分の娘・彰子が産んだ敦成親王(第二皇子)を推したい気持ちはあっても、さすがにもう少し親王が成長してからでないと東宮にはできないという思惑があったのかもしれません。
結局、次の天皇は年少すぎる敦康親王でも、もちろん敦成親王でもなく、一条天皇のいとこにあたる居貞(おきさだ)親王(花山天皇の異母弟)が三条天皇(木村達成さん)として即位するということになりました。三条天皇は、道長の次女・妍子(倉沢杏菜さん)と結婚しているのですが、史実の道長は、三条天皇になるべく早く退位してもらいたい一心で、かなりキツい対応をしており、実の娘である妍子の心も傷つけています。ドラマの道長が、今後、どのように描かれていくのか注目ですね。
ドラマの中ではあくまで正義漢として描かれ続けている道長ですが、史実の道長は自分の意に沿わぬ存在には徹底的に問題がある対応を繰り返したことで有名です。ドラマでも亡き皇后・定子(高畑充希さん)が産んだ一条天皇の第一皇子・敦康親王が、義母である彰子に対し、独特の執着を見せている様子を見た道長は(『源氏物語』の光源氏と藤壺の宮の関係のように)何か危険なものを感じたのでしょうか、一刻も早く親王を彰子から遠ざけようと元服の日取りを画策するという描かれ方をしていました。
また、そんな道長のことを、火事で伊周の屋敷に避難した敦康親王は「私を邪魔にしている(帝や中宮さまから遠ざけようとしている)」と不満に感じている様子でした。三条天皇と道長のように、敦康親王と道長も不仲だったのでしょうか?
個人的には「なかなかに恐ろしい」と思われる所業を、道長は敦康親王にしています。
一条天皇の崩御から3年後の長和3年(1014年)、道長は数え年16歳の敦康親王を自分の宇治の別荘でもてなしているんですね。このとき、40人もの遊女たちを招いたことが知られています(道長によると遊女たちが自発的に押しかけてきただけ、といいたいようですが)。当時の遊女には、現在でいう「夜職」の女性的な側面だけでなく、実家が没落したり、夫婦仲が悪かったりして、自分で稼がざるをえなくなった貴族女性がなる「フリーランスの女官」という側面までありました。つまり、宴会に遊女を呼ぶことには、彼女たちに歌や踊りを披露させる目的も(表向きは)あったのです。ところが、このときの道長は遊女たちが見せた芸に対する謝礼として、まずは自分の高価な装束を脱ぎ、それを褒美として渡すという当時の貴族男性特有の行動をして、それを敦康親王にも真似させているのですね。
しかし遊女たちの前で男性が上衣を脱げば、その後はご想像どおりで、同行していた藤原実資(秋山竜次さん)が憤慨し、当日の様子を伝え聞いた三条天皇が「極めて不善のことなり(原文は和製漢文。藤原実資『小右記』)」と不快感を示すしかない乱痴気パーティーになってしまいました。道長としては、病弱な三条天皇が遠からぬ時期に後継者の皇子をもたぬまま崩御、もしくは退位することが見えているので、故・一条天皇第一皇子の敦康親王――道長の孫である第二皇子・敦成親王のライバル――を若くして性に溺れさせ、浪費の楽しみも覚えさせて潰そうと企んでいたのではないか……と思われる一幕です。
このとき、40人の遊女たちには絹200匹(疋)、米100石などの高額の礼金も別途支払われましたが、一日の稼働で、一人当たり現在の貨幣価値で数百万円ほどは稼げたのではないでしょうか。それこそ「まぶしき闇」というしかない一面が、当時の貴族社会にはありました。
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