トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『嘘解きレトリック』ミステリーのアンバランス

【秋ドラマ】『嘘解きレトリック』第1話 「ウソを見抜ける能力」と「ミステリー」のアンバランス

松本穂香(GettyImages)

 仮に精度100%のウソ発見器があったとしたら、この世の中にミステリーというジャンルは存在しなかったんじゃないかと思うんですよ。例えば人を殺した犯人が被害者の死体を埋めて隠したり、現場にいたのにいなかったかのようにアリバイを工作したり、どうやっても自分には殺せないという状況を提示するために密室を作ったり、そういう犯人側の行為はすべて「殺していない」というウソをつく前提で行われているわけです。

「殺していない。その証拠に、死体がないだろう」

「殺していない。その証拠に、私はこのとき別の場所にいた」

「殺していない。その証拠に、現場に私が立ち入ることは物理的にできないはずだ」

 そのウソに信憑性を持たせるために、犯人はあらゆる工作をする。刑事や探偵は、そのウソがウソであることを証明するために、知恵を絞る。

 確実にウソを見抜けるウソ発見器があれば「殺したか?」「埋めたか?」「あなたはそこにいたか?」と、多くても5個くらい質問をすれば証拠が揃ってしまう。だから、ミステリーというジャンルを楽しむためには、人のウソは簡単に見抜けないという前提が必要になるわけです。

 さて、今期の月9『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)は、100%ウソが聞き分けられる女の子のお話だそうです。その女の子が探偵とコンビを組んで事件を解決していくミステリー。どんな感じになってるんでしょうか。振り返りましょう。

■能力を謎解きに使うわけじゃなかった

 時は大正末期、山間の村に産まれた主人公の鹿乃子(松本穂香)は、小さいころから周囲に疎まれて育ちました。ウソを聞き分けられることで村人からは「バケモノ」扱いされ、孤独な幼少期を過ごします。

 やがて奉公に出ることになった鹿乃子に、母親は「いつでも帰っておいで」と言って肩を抱きます。その言葉さえ、ウソだとわかってしまう鹿乃子。ハラハラと涙を流し、もう村には戻れないことを悟るのでした。

「私のこの力があれば、さしあたっての危険は避けられます」

 昭和初年、鹿乃子は九十九夜町という町にたどり着きます。

 その町で出会ったのは、貧乏探偵の左右馬(鈴鹿央士)という男でした。左右馬は飯屋でお釣りをちょろまかした子どものウソを見破った鹿乃子に興味を持ち、自分の探偵事務所の女中部屋を貸してやることにしたのです。

 翌朝、その子どもが姿を消すという事件が発生。自分がウソを見破ったことがきっかけだと思い込んだ鹿乃子はうろたえますが、左右馬はさまざまな状況から子どもの居場所を推理し、鹿乃子の能力も借りて無事、子どもを親元に帰すことができました。

 今まで、人を傷つけることしかできなかった鹿乃子の能力が、初めて人の役に立った。左右馬はその能力を「便利だ」と言って、鹿乃子を探偵助手として雇い入れるのでした。

 さて、ウソを見抜ける人がいたら謎解きが楽しくないんじゃないかという懸念を先に書きましたが、今回、鹿乃子の能力は謎解きに使われるわけではありませんでした。今まさに人が殺されようとしている現場に立ち会い、その能力によって殺人事件を未然に防ぐという役割を与えられています。

 そして、鹿乃子が事件現場に現れたのは偶然ではなく、左右馬が優れた推理能力によって導いています。おおまかに探偵の左右馬が解決のお膳立てをして、鹿乃子の能力が切り札として使われている。そのどちらが欠けても、子どもは殺されていた。2人がコンビを組むきっかけとなるエピソードとして、実に説得力のあるお話だったと思います。

■「固くこだまして耳を打ちます」

 コミック原作の実写ドラマ化というと、どうしても「ううっ」と頭を抱えたくなってしまう昨今のドラマ業界ですが、『嘘解きレトリック』の第1話はきっかりコミックの第1話を踏襲しています。むしろ、コミックの描く昭和初期の世界観を、テレビ画面の中でより華やかに立ち上げていると言っていいでしょう。エピソードもつまむところはつまみ、膨らませるところは的確に膨らませて、より豊かな作品に仕上がっているように見えました。

 そもそも原作がセンスいいんですよね。鹿乃子がウソを聞き分けることについての演出ですが、最初、原作では吹き出しに変なトーンをかけていて、ドラマでは音声と話者の顔面が少しひずむというエフェクトをかけているんですが、それを鹿乃子のセリフとして「(人のウソは)固くこだまして耳を打ちます」と説明させているんです。これ、ドラマでもそのままセリフとして使われているんですが、こうして言語化されることでウソを聞き分けるときの鹿乃子の感触を明確にイメージできるようになる。「固くこだまして耳を打つ」って、すごいセリフだと思います。

 演出には西谷弘、永山耕三、鈴木雅之と「さん」を付けるのもはばかられるようなビッグネームが名を連ねています。まさに、フジテレビのドラマ史そのものといえる3人の演出家が、よってたかっておもしろい原作を忠実かつ華美に昇華させようとしている。衣装もセットもずいぶんお金がかかっているようですし、やけに力の入った作品だな、というのが第1話の印象でした。

 あとは「ウソを見抜ける能力」と「ミステリー」というジャンルのアンバランスの中で、どれだけ事件のバリエーションが出せるかというところだけなんですが、そう考えるとむちゃくちゃ挑戦的な作品でもありますよね。楽しみです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

最終更新:2024/10/08 14:00
ページ上部へ戻る

配給映画