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【秋ドラマ】『若草物語』第1話 おじさんに対する反発と見せかけて「創作における価値観」の物語

長濱ねる

 前クールは本格サスペンスホラー『降り積もれ孤独な死よ』で日曜の夜をどんよりさせてくれた日本テレビ系の「日ドラ1030」枠、今期はうって変わって4姉妹によるコメディ『若草物語─恋する姉妹と恋せぬ私─』だそうです。

 言わずと知れた19世紀の古典小説『若草物語』をベースに、現代を生きる女性の価値観についてのお話になりそう。「恋も結婚も人生に必要ない」と言い切る27歳の女性が主人公。「男勝りな性格で、創作意欲が旺盛な次女」という設定も原典から引き継いでいます。

 いや、「男勝り」という言い方もよくないね。よくないわ。第1話、振り返りましょう。

■ブーケを避ける女・リョウ

 主人公のリョウ(堀田真由)のキャラクターを象徴するシーンがありました。なんか気乗りしないまま出席した高校時代の同級生の結婚式で、飛んできたブーケトスのブーケを避けちゃうんですね。まるで汚物が飛んできたかのように、「次に結婚する人」を暗示するブーケを、反射的に忌避してしまう。結婚式場という場において、そこにあるすべてを否定する行動です。社会人としてあるまじき行為だ。

 リョウという人物は、恋愛や結婚に対して理屈を超えたところで嫌悪感、拒否感を抱いているようです。そしておそらくは、そのことに自分自身が気づいていない。だから、ブーケを避けちゃった自分にびっくりしていたりもする。そういう女性が主人公のお話です。

 学生時代、演劇部で脚本を書いていたリョウは、『シンデレラ』を再解釈したことがありました。「もうハイヒールは履きたくない」と言って、舞踏会にスニーカーで参加するシンデレラ。そのシナリオを誰よりも評価してくれたのが、シンデレラを実際に演じた妹のエリ(長濱ねる)でした。以来、リョウはエリのために脚本を書いて生きていくことを決意し、2年前にエリが突然姿を消してからというもの、脚本を書いていませんでした。

 それでもドラマの仕事を選んだリョウはチーフADという立場で収録に参加していましたが、あるとき、監督が盲腸になったことで1話分の演出を担当することになりました。このドラマの脚本を書いているのは、大御所のおじさんです。リョウはそのおじさん脚本家・黒崎(生瀬勝久)が書いてきた「恋しないともったいないよ」というセリフにどうしても納得できず、「恋や結婚がすべてじゃないよ」と勝手に書き換えてしまいます。

 上司であるプロデューサーの柿谷さん(臼田あさみ)は黒崎版とリョウ版の2パターン撮って後で黒崎に相談するつもりでしたが、運悪く黒崎が現場に現れ、リョウ版の収録を見られてしまったから、さあ大変。バチバチの言い合いになった末、リョウは制作会社を辞めて、もう一度脚本を書くことにしたのでした。

■価値観の対立ではない

 黒崎はおじさんなので、リョウや柿谷さんたち現場の女性に、平気で「彼氏いるの?」とか「恋しなよ」とか言ってきます。ドラマを作る上でも必要なことだし、人の心を描く上で恋に教わることも多い。そして、多くの女性が恋愛や結婚を自然に受け入れている現状があり、そうした世間に向けてドラマを作るべきである。それが黒崎の持論でした。

 リョウはそんな黒崎に、激しく反発します。

「恋愛と結婚がまるっと抜け落ちても、幸せ達成できる人うじゃうじゃいると思うんですけど。そういう人たちのこと、見えないことにしてんのは、なかったことにしてんのは、黒崎さんじゃないですか? そうやって狭い価値観で、女性の幸せを決めつけないでほしいんですけど」

 一見、おじさんの古い価値観と、リョウという女性の新しい価値観の対立のように見えるシーンです。しかし、ここには価値観の対立なんてものはありません。

「おまえみたいな少数派が、自分を主語にしてドラマを作ったところで、マスには届かないって言ったろう」

 黒崎は、ずっと仕事の話をしています。価値観を押し付けているわけでもなければ、リョウの中の何かを変えようとしているわけでもない。ただシンプルに、業界の先輩として、テレビドラマをヒットさせるノウハウの話をしている。売れるドラマを書くことは同じ業界で働く人間の生活を背負うことでもあるし、そこには「売れなければならない」という責任が生じる。実際、制作会社の正社員であるリョウのお給料も黒崎が作っていると言っていい。

 おじさんに対して堂々と反論するリョウの姿は爽快ではありますが、その主張は単なる主張でしかありません。狭っちい学生演劇の舞台でちょっと評価されたからって、まるで自分の脚本や自分の考え方こそが共感を得られるはずだという主張は、もうこれは思い上がり、妄言にすぎない。無責任で幼稚です。

 そして脚本家にとって最大のロマンとは、強い思いを抱いた無責任で幼稚な主張が、そのまま形を変えずに世の中に受け入れられていくことにあります。折れたくない、曲げたくない、だけどみんなに話を聞いてほしい、みんなに受け入れてほしい、そういう矛盾めいた道を歩き始めることが、脚本家を目指すということなのです。

 このドラマの脚本は松島瑠璃子さん。存じ上げませんが、お名前から判断するに、おそらくは女性の方でしょう。すごく、乗せてるなと感じたんです。リョウというキャラクターに、魂を乗せてる感じがすごく伝わってくる。

「日ドラ1030」枠というマス中のマスで、自分が魂を乗せたリョウというキャラクターの主張を「マスには届かない」と言い切って始まった『若草物語』というドラマ。どちらかというと、「女性の価値観」というより「創作における価値観」を巡る戦いの物語になりそうな気配です。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

最終更新:2024/10/07 15:00
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