『水曜日のダウンタウン』に見た「記憶喪失」とお笑いの密接度 KOC戦士たちのコントを見る
#水曜日のダウンタウン
2日の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で放送された「記憶喪失王決定戦」。芸人たちが記憶喪失を装い、後輩に演技であることがバレないように振る舞うという企画だった。
挑戦したのはアルコ&ピース・平子祐希、トム・ブラウン・みちお、マヂカルラブリー・野田クリスタルの3人。それぞれが、柔術家に締め落とされたことをきっかけに記憶を失ったふりをして“ピュア系”の後輩を騙すというもので、締め落とす柔術家にクレベル・コイケを呼ぶという念の入れようだった。
企画では3人がそれぞれ個性あふれる「記憶喪失っぷり」を見せる大喜利を繰り広げ、後輩たちを見事に騙して見せた。
テレビドラマの世界では、今年の春クールで5本の「記憶喪失ドラマ」が放送されていたという。それほど、「記憶喪失」という現象とフィクションの相性はいいということだ。お笑いの世界でも、どんな芸人でも一度は「記憶喪失」をテーマにネタを作ったことがあるに違いない。
今回は、YouTubeから「記憶喪失」をテーマにしたコントをピックアップ。中でも、コントの精鋭である『キングオブコント』(以下、『KOC』)ファイナリストたちの記憶喪失ネタを紹介したい。
■記憶をなくした人と、その友人
昨年『KOC』で初ファイナルを経験し、今年も2年連続でファイナルに上がってきたファイヤーサンダーの「記憶喪失」は、交通事故に遭ったこてつが入院している病室に、親友だった崎山が訪ねてくるシチュエーション。心配する崎山に「君は誰……?」とこてつが尋ねるシーンから始まり、こてつが記憶喪失になっていることが明かされる。
必死に親友であることを訴える崎山に対し、こてつは「覚えてないな……」「なんか、ごめんね……」とにべもない。こてつが自分のことをまったく覚えていないことを理解した崎山が、こてつにまず要求したこととは……? 記憶を失った側のこてつの情報ではなく、崎山の性格の悪さ、陰湿さが次々に明らかになっていく展開は新鮮である。
また、12年、13年、15年と3度にわたって『KOC』ファイナリストとなり、22年に解散したうしろシティの「記憶喪失」も、記憶を亡くした人とその友人という設定だった。
こちらも交通事故で記憶を失った金子の病室を阿諏訪が訪れるところからスタート。阿諏訪が金子の記憶を戻そうと、以前、金子とバンドを組んでいたことを説明するが、そのバンドの説明を聞けば聞くほど、金子自身がそれを以前の自分だと信じられなくなっていくという展開。うしろシティらしい「苦い青春、イタイ過去」のニュアンスが詰め込まれた作品となっている。
■記憶をなくした人と、その恋人
17年の『KOC』ファイナリストである男女コンビ・パーパーの「記憶喪失」はカップル設定。記憶を失ったほしのの病室を訪れたあいなぷぅが、「記憶を失う前にお金を貸していた」と言い出して……。
パーパーというコンビの間に常に漂う微妙な距離感がコント上でも「本当に付き合っていたのかどうかも怪しい」という空気を醸し出しており、よりあいなぷぅのヤバさが際立っている。
21年『KOC』ファイナリストのジェラードンは、得意の映像コント「記憶喪失を心配して、彼氏が駆けつけて来たけど……」。記憶を失ったかみちぃ(女形)目線のカメラの前に彼氏を名乗るアタックが現れるが、どう見てもタイプではないその男性に疑いの目を向けるという設定。ジェラードン最大の武器であるアタックのキャラ造形に全振りしたネタで、途中、かみちぃの記憶が戻るという展開もある。アタックのキャラ芸が強いので、この程度ネタバレしてもおもしろさはまったく損なわない。
■記憶をなくした人と、医師
16年の『KOC』王者であるライスの「記憶喪失」は、記憶を失って長年入院している患者と、その担当医。すでに記憶が戻っていると訴える患者・田所を、医療費収入のために入院させておきたい医師・関町が知恵を絞って引き留めようとするネタだが、その方法が突飛ながら理にかなっていて、ネタを作っている田所の発想力・構成力、それにワードの精度に目を見張る。「普通の記憶喪失ネタはやらない」という強い意志を感じるし、その難題に成功しているのは、やはり王者の風格といえそうだ。
今年3月にひろゆきが脱退した新メンバーを迎えたGAGは、旧メンバー時代の17年~20年に『KOC』4年連続ファイナリストという記録を残しているが、その3人での「記憶喪失」ネタはやはり、ひろゆきを女形にした彼らの強みが生きていた。
彼氏である福井が記憶を失い、その恋人であるひろゆきが医師・SJから説明を受けるシーンから始まり、ひろゆきのことをまったく覚えていない福井の一言から一気に物語が展開していく。バカバカしさとロマンチックが両立した、これも当時のGAGらしいネタだった。
* * *
こうしてみると、「記憶喪失」というテーマはオーソドックスな設定だけに、それぞれの芸人が強く個性を出そうという意識を持ってネタを作っているように見えた。また、「本来の自分」や「過去の記憶」はその人物のキャラクターそのものを形作るものであるため、それぞれの芸人の「ギャラ自認」についても明確に打ち出されていたように思う。
そして、さすがファイナリストだけあって、やはりそれぞれのネタが似ているようで似ていないのである。
(文=新越谷ノリヲ)
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