トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ  > 『極悪女王』輝きたい女性と搾取する男たち
Netflixドラマ『極悪女王』レビュー

『極悪女王』が再現した歴史的残酷ショー 輝きたい女たちと搾取する男たちとの関係性

『極悪女王』が再現した歴史的残酷ショー 輝きたい女たちと搾取する男たちとの関係性の画像1
長与千種を演じる唐田えりか(写真/Getty Imagesより)

 アダルトビデオ界の風雲児・村西とおるの浮き沈み人生を描いた『全裸監督』(19年、21年)、ビートたけしと師匠・深見千三郎との出会いから別れまでを描いた『浅草キッド』(21年)と、Netflixが放った実録ドラマはどれも大ヒットしている。9月19日の世界配信前から大きな話題を呼んでいたのは、ゆりやんレトリィバァ主演の『極悪女王』全5話だ。配信開始翌日には、国内人気ランキングのトップになる好調ぶりを見せている。

 舞台となるのは、1980年代の女子プロレス界。空前の大ブームとなったクラッシュギャルズと敵対し、ヒール軍団・極悪同盟を率いたダンプ松本の半自伝的物語だ。全米進出を目指すゆりやんは1年間におよぶトレーニングを受け、撮影に臨んだ。恋愛スキャンダルで女優としてのキャリアを半ば失っていた唐田えりかがクラッシュギャルズの長与千種、剛力彩芽がライオネス飛鳥になりきり、プロレスシーンを演じているのも大きな見せ場となっている。

 ダンプ松本こと松本香が、女子プロレスの世界に飛び込んだのは家庭事情があった。父親は根っからの遊び人で、たまに稼いだお金はギャンブルや酒に使い、家庭には一円も入れなかった。そのため松本家は貧乏を極め、松本は学校の給食費を払うのにも苦労したという。「父親を殺してやりたい」という憎しみと、「母親を早く楽させたい」という優しさから、松本は「全日本女子プロレス」に入門する。

 厳しいトレーニングに加え、先輩レスラーたちのいじめやえこひいきも待っていた。同期入門の女の子たちが次々と去っていく中、松本はしぶとく生き残った。父親への強い怒りと母親への想いがあったからだ。そんなドロドロの人間関係の世界を、『凶悪』(13年)や『孤狼の血』(18年)などで知られる白石和彌総監督が、ホームグラウンドのように生き生きと描いている。白石監督は少年期に両親の離婚を体験しており、複雑な家庭で育った主人公たちへの感情移入もあるように思う。

女優としての再起を狙う唐田と剛力の迫真バトル

 第1話で、松本香(ゆりやん)は同期入門の長与千種(唐田)と仲良くなる。のちにライオネス飛鳥に改名する同期の北村智子(剛力)は身体能力に優れ、先輩たちに気に入られているのに対し、2人は落ちこぼれだった。長与は親が借金を背負ったために、親戚の家に預けられ、たらい回しにされたという境遇もあり、松本とは似たもの同士だった。

 だがその後、長与はライオネス飛鳥とタッグを組み、クラッシュギャルズを結成したことから爆発的な人気を得る。かつては親友だったはずの長与と松本の間に、大きな隔たりが生じていく。

 物語が俄然盛り上がるのは、第2話からだ。当時の全日本女子プロレスは一時代を築いたビューティペアブームが去り、会場は閑古鳥状態だった。実力ナンバーワンのジャガー横田(水野絵梨奈)やヒールのトップに立つデビル雅美(根矢涼香)では、お客を呼べずにいた。

 そんな中、いつまでも芽の出ない長与は、シングル対決が決まった同期の飛鳥に対し、今の女子プロレスに対する不満をぶつけるべく、ガチな試合を申し出る。飛鳥もこれに同意。2人の女子レスラーの魂と魂が、リング上でスパークする。お互いが闘志をむき出しにした熱戦だった。この一戦がきっかけで、女子プロレス界に革命をもたらすクラッシュギャルズが爆誕する。

 長与と飛鳥がシングルで激突したこの試合を、唐田と剛力は体を張って再現してみせた。唐田は長与が得意技としたローリングソバットを、剛力はジャイアントスイングをお互いに見舞う。基本、ドラマや映画で俳優同士がぶつかり合うことは非常に稀だ。相手に怪我を負わせたら大問題になる。普段から鍛えているスタントパフォーマーを相手にすることが多い。それだけに、唐田と剛力がぶつかり合うこのシーンは大いに盛り上がる。カメラも長回しで、2人を懸命に追っている。

 女優として再起を狙う唐田と剛力の情念が、レスラー生命を賭ける長与と飛鳥との真剣勝負と重なり合う。唐田と剛力が汗まみれで組み合う姿は、官能的でもある。ドキドキさせる。『極悪女王』屈指の名場面だろう。この好カードは、第4話でもう一度再戦されることになる。

12
ページ上部へ戻る

配給映画