霜降り明星・粗品が新曲『泣声夜』のMV解説 「耳が聴こえない人に届ける音楽」とは
#粗品
「耳が聴こえない人も楽しめるような音楽を作っていく」と発言したことを、粗品自身は覚えていなかったのだという。
25日、霜降り明星の粗品が自らのYouTube個人チャンネル「粗品Official Channel」に「『泣声夜』MV解説」という動画をアップしている。この動画の中で粗品は、自身が同じチャンネルで18日に公開した楽曲「泣声夜」のミュージックビデオについての解説を行っている。作詞作曲歌唱のみならず楽曲プロデュース、MVの監督脚本絵コンテに至るまで、粗品が自らの手で手掛けた作品である。
「お笑いで救えなかった人たちを音楽で救いたい」と豪語してきたという粗品。だが、生配信で耳が聴こえないファンと出会ったことで、「めっちゃ焦った」のだという。
「あんなに豪語してたのに、さっそく矛盾してるやん俺、って思ったんです」
「全員救いますとか言ってるわけですよ。いや、違うやん、耳不自由な人、音楽聞かれへんやんって思ったんです」
その思いから、粗品の「耳が聴こえない人に届ける音楽」を捜す旅が始まる。当事者への取材、映画やドラマなど聴覚障害者が登場するさまざまなコンテンツを見漁り、粗品なりの帰結として制作したのが「泣声夜」だった。
「泣声夜」のMVの主人公は、耳の不自由なひとりの女子高生。友人たちは彼女との筆談にも協力的だし、決してイジメられているような状況ではない。それでも、どうしてもぬぐい切れない疎外感がある。
「皆、何してるの?」
「今音楽聴いてるから あんまり分かんないと思うごめん!」
「音楽ってどんな感じなの?」
「えー説明むずいかも(笑)」
筆談のやりとりが描かれる。主人公の彼女は、友人たちの前では笑顔を崩さない。そんな風景のバックに、無骨な粗品のボーカルが鳴っている。そのボーカルも、ギターもベースもドラムも、彼女には聴こえていない。響いていない。それでも粗品は、鳴らし続けている。MVを見ている私たちには、その演奏が聴こえている。
印象的なシーンがある。
間奏に入ると、アップで映し出された粗品が大きな口を開けてカメラに何か叫んでいる。今度は、その声は私たちには聴こえない。耳が不自由な人の多くは、相手の唇の動きを読んで言葉を受け取るのだという。今、私たちが聴きたくても聴こえない粗品の叫びが、彼ら、彼女らには聴こえているのかもしれない。粗品と彼らだけが今、言葉を共有しているのかもしれない。健常者である私たちに、その疎外感を突き付けてくる演出だ。
光なら、振動なら、音楽が伝わるかもしれない。自ら取材し、猛勉強したであろう「聴こえない人の世界」に、粗品は踏み込んでいく。怖いことだと思う。「誤解を恐れずに」と言ってしまえば簡単だが、実際に踏み込んでいくのは、本当に怖いことだと思う。
「耳が聴こえない人に届ける音楽」とは何か。その問いにひとつの回答を示して、MVは終わる。正解なのか、正確なのか、本当にこの曲は耳が聴こえない人を救ったのか。そんなことはわからない。だが粗品は、ひとつの回答を示して見せた。問いかけて見せた。
MVの解説動画は正味1時間半にも及んだ。それぞれのシーンの演出意図や、込められた思いが語られている。その端々に、出演者やスタッフへの感謝が挟まれている。
そしてその1時間半の動画には、当然だろう、すべての文言に字幕テロップが表示されていた。
(文=新越谷ノリヲ)
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